創作した小説が世界の神話になっていた頃


 

[第二部・第二十五話:新年の決起集会(後編)]

 

 ――その日の夕刻。

 皇帝の反乱組織の本拠地・緑龍城の秘密の軍会議室にて。実質“幹部”だと認められている人物らが、リーダー……軍総隊長から呼ばれた通りに集まり『奪還軍』を決起する。

 

 

 優秀な忍びの隊の代表・黒竜。……彼らは情報収集と戦闘、両方の力に期待できる。

 

 元砂賊及び傭兵団砂狼の団長・レッドガルム。……彼らも情報収集に長けるが圧倒的な戦力に期待。

 

 湖族の戦士たちの隊長・ダリア。……人数は少ないが、個々の戦闘力に期待と、水場での活躍も任せる。

 

 ダリアの付き人として湖族隊の副長・ロッサム。

 

 そして、元蒼騎士聖剣部隊の隊長・バシル。……こちらも人数は少ないが元精鋭部隊な為に相当な腕を見込み、且つシリウス軍の兵力を把握している貴重な隊である。

 

 家政婦長・アヤメ。

 

 軍師で参謀長及び軍副長のショーン。

 

 軍総隊長の付き人・フルド。

 

 軍総隊長の護衛・朱音、白雷。

 

 軍付き職人班の班長・イヴァン。……補佐でもあり、兵を希望するなら相応に活躍してもらう。

 

 その他・カルロス・アスールス・サン=ラーデ卿。……主に財力に期待。

 

 カルロスの付き人・タヤマ。

 

 

 この十三人が今のところ幹部であり、軍総隊長と対面できる人物とする。

 但し、軍及び総隊長の情報は秘密厳守。もしも漏らしたら即刻抹殺されると心に留めておく事。又、部下が軍情報を漏らした場合も責任を負ってもらう為、その覚悟も必要になる。

 

 

 自分が幹部として反乱組織の本拠地に呼ばれたカルロスは、その他扱いに不満を持ったが、それよりも知り合いが幹部に居た為に驚き駆け寄る。

「おお〜い! フルド殿ではないか! 懐かしいな〜。しかし貴殿がここに居るとはびっくりしたな。あの、アルバート皇子の従者だったじゃないか。てっきり今も皇帝の側近をやっているのかと思ったぞ」

「ご、ご無沙汰ですね」

「なんだよフルド殿〜! やけに他人行儀ではないか。友人に対して!」

 友人と呼ばれたフルドは視線をそらしたが、構わずにカルロスは続ける。

「でも貴殿はアルバート皇子の従者を辞めたんだな。そして反乱組織に入ったってわけか。分かるぞ〜」

 カルロスは一人で頷き、フルドに耳打ちした。

「あいつ、性格悪そうだもんな。だから嫌で逃げ出したのだろう?」

「え!?

 ちょうどフルドが青ざめた頃――

 

 反乱組織『奪還軍』の軍総隊長が臙脂色のコートを羽織って登場して、皆が静まる。

 カルロスは口をつぐみ、朱音と白雷が総隊長の横に着いた。

 

 黒い髪を切ったレオに、カルロスとタヤマは誰かに似ていると首を傾げたが。

 軍総隊長は前に出て皆に言い放った。

 

「よく集まってくれたな、皇帝の裏切り者共。もしも俺が皇帝だったら、お前らは全員極刑だが。極刑にされても構わない奴だけ残れ。もし命が惜しかったら咎めないから今の内に去るといい」

 

「え? え?」

 カルロスは、レオの言葉の真意が分からずに戸惑っただけだが、勘のいいタヤマがレオの顔に気付いて口を押さえる。

 足を震わせながら小声でボソボソと呟いた。

「ままままさか……いや、そんなはず……しかし似過ぎでは!?

「ん? どうした? タヤマ」

 鈍感なカルロスは全く気付かない。

 

 レオは、誰も出ていかないのを確認してから言い放った。

「じゃあ、真実を話すけど」

 ふんぞり返って偉そうに。

 

「俺は、皇帝・アルバートだ」

 

「うわぁあああああ!!

 叫んだのはタヤマだ。叫んだ後にすぐに土下座の姿勢をとった。

「すみませんでした! すみませんでした! すみませんでした!」

 謝った後に錯乱状態で嘆く。

「やはり本物だ。本物だったんだ。極刑だ! 極刑なんだ〜〜〜」

 一方、カルロスはタヤマの行動にびっくりしすぎて肝心のレオの発言の意味を考えずに首を傾げた。

「どうした!? タヤマ!!

 むしろその反応に場は唖然としたし、タヤマはブチ切れそうになった。

「馬鹿ですか貴方は!! いいえ、馬鹿ですね、若様。本人だったんですよ、レオ様は! アルバート皇帝だったんです!!

「え? 皇帝」

 ようやく少しずつ頭に入ってくるカルロス。

 タヤマは自分の予想で続ける。

「つまり、アルバート皇帝は謀反者を一網打尽にしようと、反乱軍に潜入していて! レオという首領のふりをして我々の前に現れたのです! もうお終いですよ、この場に居る皆が! 私たちも!」

 その解析にショーンは目を丸くして笑った。

「すげぇ。やっぱ彼は光る物があるな」

 

 カルロスはゆっくりと理解していって、ようやくレオがアルバート皇帝本人だと分かり大量の汗を掻く。まず、横で憐みの眼で見てくるフルドに勘違い怒りをぶつけた。

「フ、フルド殿〜〜! 謀ったな〜〜〜!」

「は、謀ってないです!」

 フルドが否定すると今度はレオに指をさす。

「お前……いや、貴方が!? シリウス!?

 本人を目の前に散々シリウスの悪口を言った記憶を思い出して腰を抜かした。

「いや、なんていうか……」

「カルロス様〜〜〜謝ってください! 土下座ですよ」

「ええ!?

 このカルロスとタヤマのやりとりを不憫に思ったショーンはレオに言った。

「レオ! 黙って見てないで教えてやれ」

「いや。面白いからさ」

 レオは仕方ないと、彼らに告げる。

「俺は本物のアルバートであるけど、奪還軍の総隊長である」

 今までの首領はやめて、軍総隊長と名乗ることにした。

「つまり、今、玉座に座っている奴が偽者であって」

 すぐに察するタヤマ。

「ああ! だから、奪還軍!? えええ!! なんですかその事実! なんてことでしょう!!

「お前、理解が速いな。頭いいぞ」

「滅相もございません〜〜〜」

 タヤマとは違って更に混乱するカルロス。

「え? 何? ニセモノ?」

「若様! 我々は極刑にならなくて済みそうですよ」

 

 カルロスのことは放っておいて、レオは改めて続きを話した。

「俺は、奪還軍・軍総隊長のレオだ。ここに居る者は俺の命令に従ってもらう」

 皆に目的を告げる。

 

「俺たちは偽者の皇帝を打倒する。そして俺は皇帝及びシリウスの座を奪還する」

 

 まるで『レオの目的のみを達成する』みたいに誤解を招くので、ショーンは善い風な事を付け加えた。

「要するに、圧政に苦しむ国民が解放されるってわけだな」

 余計な事を、という目でレオは見てきたが、続けて朱音もフォローしてきた。

「その通りですね」

 

 レオはため息をつき、大事なことを告げた。

「俺の正体は、絶対に漏らさないようにしてくれ。こちらも作戦があるから。その作戦を台無しにしてもらいたくはない。詳しくはその都度ショーン軍師が話すから、心して聴けよ」

 ニッと笑いながら、目蓋を落とした。

「俺のはまだしも、軍師の言うこと聞けば、大体うまくいくから」

 言われてショーンは頭を押さえる。

「それは言うな。責任重大だろ」

 レオはポカーンとしているカルロスの横に居るタヤマに命令した。

「おい、お前! そいつに、詳しく教えておけよ。ちゃんと理解するように。分かったな」

「は、はい!」

 タヤマは背筋を伸ばして立ち上がる。

「馬鹿でも解るように説明しますので! どうかお任せください」

「頼んだぞ」

「はは〜」

 

 

 ともあれ、説明が終わると皆に杯が配られて酒が注がれる。ここに、奪還軍としての誓いを立てると共に乾杯をした。

 組織は正式に確立されて“軍総隊長”のレオが青い十字の紋を掲げる。実は蒼騎士聖剣部隊の物と似ていたが、そのマークが奪還軍の紋章となり、皆にも腕章が配られる。

 その後、軽い食事をして決起会は終わり、夜に皆が解散となった。

 

 

 

「ふぅ」

 一段落ついた。

 解散を言い渡したレオは城内の自分の部屋に戻り、中で待っていた玲菜にもたれかかる。

 用意された食事をし終わり、ウヅキと一緒に待っていた玲菜はもたれかかってくるレオを抱きとめて「お帰り」と笑顔で迎えた。

「お疲れ様、だね」

「あ〜〜〜〜疲れた」

「大変だったね、決起会」

「あの馬鹿が……」

 レオはカルロスのことを言いかけて口をつぐみ、代わりに玲菜を抱きしめる。

「まぁいいや。疲れを癒してくれよ、軍総隊長の女」

「え? 軍総隊長の女?」

「そーだよ。今日からお前は軍総隊長の女」

「えええ!? 何それ強そう! 私が女将軍みたいじゃない?」

 なんていうか……反応が可愛いと感じたレオは笑ってしまった。

「お前、相変わらず絶好調だな」

「え? 何が? どういう意味?」

 首を傾げる玲菜の頬を触り、見つめる。

「もう癒されたってことだ」

 途端に顔を赤くするのがまたなんとも。

 玲菜は照れながら嬉しそうに笑い、上目遣いで見つめた。

「じゃあ、お風呂用意してあげるね!」

 可愛くて見惚れたレオは慌てて止める。

「ああ、いいよ。お前休んでいろよ」

「大丈夫!」

 バスルームに向かおうとした玲菜の腕をレオは掴んだ。

「いいから。明日入る! 今日はもう、一緒に寝るぞ」

 また朝風呂か。

 玲菜は呆れたが、『一緒に寝る』という誘いは嬉しいので頷く。

「うん。じゃあ……先に、ショーンの所に行こう?」

 そうだった。

「あ、そっか」

 レオは思い出す。

「オヤジに、渡すんだったな」

 

 ―――――

 

 その頃。隣のショーンの部屋では、疲れたショーンがうとうとしながら風呂に入る準備をしていた。

 洗面所で歯を磨きながら、今後の山積みな問題をどう処理するか考える。

(また朝考えるか)

 今日はもう眠いのでさっさと風呂に入って寝てしまおうとしていた矢先に――

 

 部屋のドアをノックする音が聞こえて、開けると廊下にニコニコと笑った玲菜とレオが待っていた。

「どうした? お前ら」

 ニコニコというか、どちらかというとニヤニヤか。何かこちらの反応が見たそうであり。

 そう勘ぐった時に玲菜が赤い携帯電話を差し出す。

「ん? 玲菜のケータイがなんだ?」

「データフォルダの、最初の方見てみて!」

 言われた通りにフォルダを開いて古いデータを調べると。なんと、そこにあったのは……

 

 

「純玲さん?」

 

 

 愛しい妻の写真。

 ショーンは口を押さえた。

(写真の写真か)

 まさか、娘も自分と同じことをしていた。しかも、自分は携帯電話を忘れてきてしまったが、娘は持ってきていて、自分がずっと見たかった最愛の人の姿が映っている。

 

 若干手を震わせながら画面を見ているショーンに、レオが玲菜から聞きながら言った。

「なんだっけ? クリスマス? 遅くなったけど、俺たちからのクリスマスプレゼントなんだよ、オヤジ」

 

「ああ、ありが……とう」

 少し遅れて、ショーンは礼を言った。

 画面から全く眼を離さずに訊ねる。

「これ、ちょっと借りてていいか?」

「いいよ!」

「充電無くなるかも……しれねーけど」

 ショーンの言い方が泣きそうで、逆に玲菜が感極まってしまった。

「いいよ! お……」

 また、お父さんと、言いそうになった。

(言えばいいのに、なんで止めるの? 私)

 

 自分が涙もろいのは、絶対に父のせいだ。

 父が涙もろかったから。

(映画とかでよく泣いてたし)

 今、もしかしてショーンは泣きそうなのかと思うと自然に父と重なる。けれど。

 

「返すの明日でいいから、ショーン」

 また『ショーン』と呼んでしまい、玲菜はレオと共に隣の部屋へ戻った。

 

 父と呼べないことを後悔しながら。

 

 

 一方ショーンは、部屋のドアを閉めてから目をつむり、堪えていた涙を流した。

(ダメだな。歳取ると涙もろくって)

 携帯の画面の小さな写真。

 たったこれだけで泣けてしまうなんて。

 

 ずっと会いたくて、会えなくて。写真で見ることもできなくて。アルバムを持ってこなかったことを後悔した。いや、実は写真だけは数枚だけ写真立てを鞄に入れて持ってきたが、都の家の部屋に置き去りで二年間も見ていない。

 

 会いたい気持ちとさみしさだけは募った。

 

 今見ている、玲菜の携帯電話の写真は写真立てには無かったもので、しかし憶えがある。

 

 玲菜がまだ二、三歳で桜の季節。家族三人で花見をしていて、玲菜と桜ばかり撮っていたのだが、彼女にカメラを向けたら「私じゃなくて玲菜を撮ってよ」と恥ずかしそうに笑った。

 それがあまりに綺麗で、気付いたらシャッターを押していた。――そんな一枚の写真。

 

 懐かしくて、幸せだった気持ちも思い出して涙が出る。

 娘は憶えているだろうか。……いや、きっと記憶に無いか。

 

 無くても、この写真を残してくれた。

 

(ありがとう、玲菜)

 それに、“息子”にも感謝したい。

(レオも、ありがとう)

 写真を眺めながら、ショーンは妻に、大きくなった娘と彼を紹介したいと考えていた。

(っていうか、どっかで見てるかな。知っているんだろうな、二人のことは)

 自分が紹介しなくてもきっと彼女は見てくれている。

 

 今も、きっと……――

 

 

「でもやっぱり、会いたいな。純玲さん」

 

 ショーンは画面を見つめながら彼女との思い出に浸り、切なそうに微笑んだ。


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