創作した小説が世界の神話になっていた頃
[第二部・第二十七話:アスールス邸]
まさか、ここにプールがあるとは思わなかった。赤い砂漠や荒れた土地ばかりを見てきたから。いや、都会は比較的水が豊富で、サイの都なんかは無駄遣いしているのも知っていたが。
なんとなく、河や湖や海で泳ぐのは想像できても、豪華な広いプールがあるとは思わなかった。広いだけでなくそれなりに深い。
実は、宮廷にも遊泳場(プール)があると、深く潜って泳いでいたレオは言う。
「ああ、知らなかったのか。暑い季節に水を張って泳げる場所があるんだよ。皇家と護衛しか入れないけど」
プールから上がってきた彼は、いわゆる“水もしたたる”なんとやら。
水に濡れた髪を掻き上げる仕草は見惚れざるを得ない。玲菜はうっとりとしながらも彼の見事な泳ぎを称賛した。
「レオ、潜水凄い! 凄い長く潜っていられるんだね。もしかして潜水で二十五メートル以上いけるんじゃない?」
「二十五メートル?」
なぜ二十五メートル基準なのか分からないレオだったが、平然と答えた。
「距離は分からんが、息継ぎ無しでも結構長く泳いでいられるぞ、俺は。昔訓練したからな」
もちろん得意げな顔だったが、玲菜はもう、綺麗な泳ぎと逞《たくま》しい体と水の魔力にやられてしまってむしろ直視ができない。
一方レオも、腹を露出した(いわゆるビキニ)彼女の水着姿が眩しすぎて。最初は嫌々だったのに、来て良かったとアスールス港町・アスールス邸をお気に召した様子。
――ここは、アスールス港町にあるカルロスの邸宅の庭に設置された豪華遊泳場。
到着した一行は、天気も好く暑い日差しに気温も高かったので、しばし水浴びを満喫する。
*
途中、河を渡る時は船を使ったが、それ以外はほぼ馬車による若干窮屈な移動で旅をした一行は、おおよその計算より早く九日後には無事にアスールス港町に到着した。
早いと言っても少し早い程度か。着いたのは夜で、すぐにアスールス邸へ移動。荷物などを運んで、軽く食事をしたらその日は就寝してしまった。
玲菜が歓声を上げるのは朝起きてから。昨夜は暗い中で一人部屋に通されたので分からなかったが、移動旅の疲れで眠っている所にメイドが起こしにやってきて、彼女が大きな窓のカーテンを開けると見えたのは絶景のコバルトブルーの海。
ぼんやりとしていた玲菜の目は開き、一気に眠気が吹き飛ぶ。青い空と蒼い宝石のような海が目の前に広がって、しばらく呆然とした後に「オーシャンブルーだ!」と歓喜してしまった。
その後個室のままに、優雅な朝食が運ばれて、「しばらくおくつろぎください」との伝言があり。更に屋敷内では自由にして良いとの事。遊泳場の案内と幾つかの水着や着替えが渡される。
戸惑う玲菜に、レオからの「遊泳場に行くぞ」との誘いが伝えられた。
ショーンからも、「今日くらいは遊んで良い」と許しを得て。
*
水着に着替えた玲菜は、レオと一緒に庭の豪華遊泳場に行き、彼の泳ぎを見せてもらった。……まさか、彼が華麗な潜水を見せてくれるとは思わなくて、うっとりした現在に至る。
それにしても……
(水着、現代っぽい)
思ったよりも自分の暮らしていた時代と似たような仕様の水着にびっくりする玲菜。
レオはハーフパンツ的な水着を穿いているし、自分に用意されたのも、ワンピースやツーピースの他にビキニ型まであった。但し、ゴム製ではなく木綿であって、背中の紐などをしっかり結ばないとずれてしまいそうだし、若干泳ぎにくいというのもあるが。ともかく見た目はかなり近い。
もっとも、色は男女用とも黒や紺のみであり柄もあまり無く地味と言えば地味。玲菜は残念に思ったが、贅沢は言っていられない。ワンピース型だとスクール水着に似ている為、ビキニ型にしてみたのだが、自分の貧相な体にレオがガッカリしているのではないかと落ち込んだ。
(せめて水着が可愛ければな)
しかし当のレオはガッカリなんてするはずもなく、何度も見ては照れて顔を赤くしていた。その赤さを隠すために水に潜る。
そして潜水して泳ぐ度に玲菜がドキドキして顔を赤くする。という循環になっていた。
まさに二人の世界とも言える。
一方、ノリで遊泳場に一緒についてきてしまったイヴァンは、今まで水泳に馴染みの無い生活を送ってきたが為に泳げなかったのだが、二人の世界を壊してレオに睨まれるのが怖くて泳ぎを教わることができずに、日陰の椅子で一服しているショーンに近付いておずおずと話しかけた。
「おじ……ショーンさん。休んでいるところ申し訳ないっすけど、オレに泳ぎを教えてもらえないですかね?」
「え?」
ショーンは一度ニッと笑い、仕方なさそうに返した。
「ああ。イヴァン、お前カナヅチか」
「金槌?」
「いや。泳げないのかってこと」
恥ずかしそうにイヴァンは答える。
「ずっと下町を離れてなかったから、河とか海とかに馴染みないですからね〜。レオみたいに城の遊泳場に入れるわけでもないし」
今居住している緑龍城は湖に囲まれているが、泳ぎの練習はしたことないらしい。
「あ〜なるほど」
ショーンは納得して頷いた。
「分かった。じゃあ煙草吸い終わったら見てやるから」
「ありがとうございます!」
礼を言ったイヴァンは、嬉しそうに遊泳場に戻る。気を遣ってレオたちとはちょっと離れて、水に浸かりながらレオの泳ぎをじっと観察していた。
やがて……
大分時間が経って。
一向にショーンが来ないと心配したイヴァンは一度水から上がり、ショーンの座っている方へ向かう。
近くに行くと、まさかの睡眠状態に気付いて肩を落とした。
「おじさん……」
心地好くて寝てしまったのか。
「教えてくれるって言ったじゃんよー!」
起こそうかと思ったが、恐らく疲れていて。イヴァンは一人で嘆いて遊泳場に戻っていった。
すると、ようやくイヴァンの様子に気付いた玲菜が声を掛けてくる。
「どうしたの? イヴァン君、泳がないの? もしかしてレオが独占してて邪魔だった?」
「あああ、いや、そんなことない! レオ君別に存分に泳いでいていいよ。だってオレ、泳げないし」
最後のセリフは小さな声で。
それなのにレオはわざとらしく大きな声で訊き返した。
「泳げない!?」
「うっ」
イヴァンは顔を赤くして怒る。
「うるさいな! 仕方ないだろ〜。一般人は皇子や貴族とは違うんだよ!」
「へー」
聞いたレオは、普通の格好で近くに控えていたフルドの方を向く。
「そうなのか。でも、フルドも泳げないけどな」
「へ、陛下!」
フルドまで顔を赤くしてレオに注意する姿を見て、玲菜は察した。
(あれ? この世界の人たちって、結構泳げない人多い?)
自宅に遊泳場があるとか、海や川の近くに住んでいるならまだしも、水の少ないこの世界では水泳に関わる機会が通常少ない、と。
(そうなのか。だから……)
玲菜は思った。
(お父さん、泳げなかったんだ)
自分が子供の頃、父にプールや海に連れて行ってもらったが、父自身は泳げなくて水に浸かるだけ。玲菜の浮き輪に結構ガッシリ掴まっていたり、ビート板を片手に持っていたり。
運動能力の高い父だった為に、子供心にも不思議に思ったものだ。
(まぁ私も、そんなに泳げないけどさ)
父に泳ぎを教われなかったので、小学校で習ってようやく25M泳げたくらいだ。
(しかも平泳ぎ)
俯く玲菜の顔を覗き込んでレオが訊ねてきた。
「そういやお前も泳がないな。もしかして泳げない? それだったら俺が手取り足取り教えてやるけどな」
なんか言い方が卑猥《ひわい》に聞こえる。
「泳げなくない! レオよりは下手だけど、一応泳げるもん」
その言葉に飛びついたのはイヴァンだった。
「レイナちゃん! オレに泳ぎ教えて!!」
「え?」
「駄目だ!!」
即断ったのはレオの方であり、イヴァンをジロリと睨みつける。
嫉妬で言ってきたのはあからさまだが、じゃあどうすればいいんだとイヴァンは文句を言った。
「なんだよ! じゃあ、レオが教えてくれるのかよ」
「え?」
嫌だが、彼女が教えるのはもっと嫌なので。レオは仕方なしに承諾する。
まんまと二人の世界を邪魔されて、不快に感じながらレオは荒くイヴァンを指導した。
その様子を微笑ましく見ながら、玲菜は一度水から上がって、眠っているショーンの許へ向かった。
目を閉じている姿にクスッと笑いながら呟く。
「狸寝入りでしょ」
呟いた後に、すぐに玲菜が戻るとショーンは恥ずかしそうに目を開ける。
(玲菜にはバレるよな、やっぱ)
頭を掻き上体を起こして、楽しそう(?)に遊泳場で遊ぶ三人を見守った。
そうして、プールを満喫していると、人数分の飲み物を持ったタヤマを引き連れたカルロスが水着姿で皆の前に現れた。
「我が家の遊泳場はお気に召したでしょうか、レオさ…あ、レオ……陛下。いや、アルバー……」
いろいろと呼び方を悩んでいるようで、レオは面倒くさそうに告げる。
「陛下と呼ぶな。正体がバレたくないから」
「は、はい。レオ様」
カルロスは改めて言い直す。
「我が家の遊泳場はお気に召したでしょうか、レオ様、皆さん」
彼はタヤマから何回も説明をされてようやく理解した。レオが皇帝・アルバートなこと、今皇帝として君臨しているのはそっくりな偽者だということ。それと、恐らくレオと玲菜は恋人同士にあるということ。
偉そうな態度をすっかり改めたカルロスは、たとえ嫌いなシリウス本人であったとしても偽皇帝への反乱に協力することを心に決めたが、玲菜への気持ちは誤魔化せないので密かに想い続けることにする。
今も……
レオの隣でこちらを見つめる瞳に魅了されないわけはない。
水着姿もセクシーでつい見惚れてしまう。
「美しい……」
うっかり呟いてしまったカルロスは、わざとらしく咳払いをして何も言っていないフリをする。
眉をひそめるレオと目が合って、慌てて言葉を発した。
「えー、えーっと。えーとですね」
何を言おうとしたのか忘れた。とっさに助け舟を出したのはタヤマだ。
「皆様! アスールス家の敷地内で獲れた果物や絞ったジュースをどうぞ」
彼が、置いてあるテーブルにジュースを並べると、給仕がやってきて瑞々《みずみず》しい果実も次々に並べていく。
イヴァンは「うわぁ!」と歓声を上げてレオの機嫌も一気に好くなった。
しばし甘くてすっぱい果物やジュースを堪能する。
玲菜は果実がミックスされたフルーツジュースを飲んであまりの美味しさに感激の声を出した。
「美味しい!」
「それは良かった」
顔を赤くしながらカルロスは微笑み、先ほど忘れてしまった事を思い出して皆に問う。
「ところで、今後の予定なのですが。本日はお休みいただくとして、明日からはどのようにしますか?」
「ああ、うん!」
答えたのはショーンだ。
「移動中に考えていたんだ。ここでの滞在中の予定を。それで、さっそくカルロス殿に相談があって。いろいろ把握したいことがあるし」
「え?」
いきなり自分が軍師に期待されていると感じたカルロスは嬉しそうに返事する。
「分かりましたショーン殿、相談を受けましょう。今からですか?」
「うん、そう。タヤマ君も一緒に来てくれ。あと……朱音さん」
「はい」
呼ばれた途端にどこからともなく姿を現す朱音。
ショーンはレオに向かって言った。
「朱音さん、借りるから! 白雷君も居るし、自分の身は守れるだろ?」
「え? そりゃあ、平気だけど」
「じゃあ屋敷に戻るからな。お前たちも長く水に浸かり過ぎないようにしろよ」
皆に手を振り、カルロス、タヤマ、朱音を引き連れて室内に向かう。
残されたメンバーは呆然としながらショーンたちを見送った。
その、ショーンたちは……
室内に入り、一度着替えてから改めて居間に集まる。
大きなテーブルの椅子に着いたショーンには給仕の女性が紅茶を運び、全員の前に置くと彼女らは出ていく。他にも使用人たちに全員部屋から出て行ってもらい、タヤマも席に座らせてショーンは小さな声で喋り始めた。
「相談事というのはな、カルロス殿」
「はい」
「まず、町の様子を詳しく知りたいとか、貿易のことも把握したいんだがな」
「はい! もちろん情報提供を」
ハキハキと答える彼に、含み笑いをしながら一番欲しい情報を訊ねた。
「裏で繋がっている犯罪者組織の幹部を紹介してくれよ」
「は?」
「できれば大物。ボスがいいかな」
ニヤッと笑うショーンに、首を傾げるカルロス。
「ボス?」
「つまり頭《かしら》ってやつだ」
「犯罪者組織の頭……」
思ったより反応が薄く、呆然とするカルロスに、ショーンは意地悪そうに告げた。
「隠さなくていい。悪いな、朱音さんに調べさせてもらったんだ。キミらを仲間に加えるには素性を明らかにしないと安心できなくて」
「は、はぁ」
「繋がってんだろ? そういう輩と。大丈夫だよ、貿易にはつきものだし。咎めたりはしない」
ショーンに続いて朱音が本人に謝る。
「勝手に調べてすみませんでした。しかし、これもアルバート様や奪還軍のため。私は忍びですのでご了承くださいね」
「い、いや、それは怒ったりしないが。裏で?」
未だに状況が把握できないのか、カルロスがとぼけるので、ショーンは眉をひそめてつっこんだ。
「だから、分かってんだよ! でなけりゃ寂れかけた古都の領主が港町を買えるわけないし、ましてやそこが発展して莫大な富を稼げるわけも無ぇ。犯罪組織がやってる外国との密売を見逃す代わりに儲けた金を受け取って……」
「バレましたか」
……言ったのは、カルロスではない。
「さすがショーン様です。そこまでご存知とは」
そう、言葉を発したのは、カルロスの隣に座るタヤマであって。
これにはショーンたちもびっくりしたが、一番驚いているのがカルロスであり、大量の汗を流して声を震わす。
「タタタタタタタヤマ……お前、何言って……」
「え!?」
むしろ、カルロスが本当に事実を知らなかったことが信じられないショーン。
「ちょっと待て。本当に、カルロス殿は知らなくて?」
「ししし、知らないというか……え? 犯罪組織と裏で繋がる? 事実無根ではなくて?」
混乱するカルロスに、タヤマは申し訳なさそうに告げた。
「残念ながら、事実無根ではないのですよ、若様。ショーン様の言う通りでありまして、先代様は知っておりますが」
「父上が?」
「さようです。そもそもサン=ラーデ家は財政難であって」
「財政難?」
「隠してきましたが、先代様が若様に港町を買わせたのも、立て直すための賭けであって、お金があったからではありません」
次々に発覚する事実に、放心状態のカルロスと話を続けるタヤマ。
「当然、すぐに借金を返せなくなって破綻寸前。港を潤すには貿易が有効的で、しかし規制のせいで思うように儲からない」
察したショーンが口を挿む。
「それで、密売に目を付けたわけか。港には密航人とかも居るし、犯罪集団ができやすいからなぁ。そいつらと取引をすれば自然と金が集まるし、“家”を立て直せるどころではなく……」
「はい。それどころかどんどん金が入って、今や大金持ち貴族です。代わりに、町が物騒になりますけど」
タヤマの言葉に、口を開けっ放しだったカルロスは愕然と港町の大きな問題の原因を理解する。
「港の犯罪発生率が高すぎるのはそういうことか!! 警官隊を投入してもまるで無意味じゃないか!」
思わず立ち上がって怒鳴った彼は力無くまた椅子に座る。
「隣国との戦が原因ではなかったんだな。うちが裏で連中と繋がっていたから港の治安が悪かったんだな」
聞いたショーンは悟る。
(隣国との戦のせいだと。だから、こいつはシリウスを嫌って?)
落ち込む彼を不憫に思って配慮を加えた。
「いや、治安が悪くなる原因はもちろん戦にもあるぞ。隣国とだったら尚更だし」
「ショーン殿……」
もちろん、治安の悪さ故に国の調査が入って、繋がりがバレたらカルロスは家共々終わりになる。けれど、家を立て直すにはもうこの方法しか無かった。いや、もしかしたらあるかもしれないが、危機的状況で判断を迫られていた。
先代に頼まれたタヤマがカルロスには一切秘密にしていたのは、万が一、国にバレても自分だけが捕まってカルロスは罪にならずに済むかもしれなかった為。
(すげー主人想いの出来た従者だな)
ショーンはとにかく感心した。
(頭の切れも良いし、忠誠心もある。こういっちゃ申し訳ないが、冴えない見た目からは想像つかないな)
普段彼は眼鏡的なゴーグルを掛けていて瞳がよく見えない。そばかすも多いけれども、金髪であるし。
(もしかしたら眼鏡を外すと美形だったりしてな。……まぁ、そんな漫画みたいなことは無いだろうけど)
漫画という懐かしい文化に「ククッ」と笑いつつ、カルロスの家の秘密も分かったことなので本題に入る。
「さて。じゃあ本題なんだけどな。俺が犯罪組織をアテにしてまで欲しいのは密売されている武器や、まぁ戦に使える物であってな。外国製の、特に東の大陸か北の方の国の物か」
しかも短期間で大量生産できる物がいい、とショーンは思う。
「直接交渉に行きたいからさ、幹部が集まるアジトとかあったら案内してほしいんだけど」
「案内?」
カルロスは当然知らないのでタヤマの方を向くとタヤマは考えるようにして頷いた。
「分かりました。案内します。けれど何しろ危険な奴らなので……」
「それは問題ありません、私がついていきますから」
名乗り出たのは朱音であって、彼女が居れば百人力である。
「ありがたい、朱音さん」
ショーンが礼を言うと朱音は「フフッ」と笑う。
「ショーン様は初めからそのつもりで私を呼んだのですよね?」
お見通しだ。
「うん、そう、すまないな」
二人が話していると、タヤマは言い難そうに口を開いた。
「それと、連中はかなり……用心深くありまして」
「用心深い?」
「恐らくショーン様たちのことは疑ってくると思います。若はアスールス伯爵で通ると思いますけど」
なるほど、と思うショーンと、耳を疑うカルロス。
「え! 俺も行くのか!?」
カルロスが恐る恐る訊ねるとショーンが「当然」と返事をする。
「カルロス殿には行ってもらう。向こうはきっと金の心配もするだろうから、当主本人が行けば信用すると思うし」
聞いてカルロスは青い顔をしたが、それよりもショーンは考える。
「う〜ん、なるほど。疑ってくるかぁ。そうかもなぁ」
朱音も、堂々と付いてこさせるにはいつもの格好だと不自然な気もする。
(ボディガードというのもなんかな。俺が交渉するわけだし)
大量の武器を買って奪還軍とバレるのも嫌だ。
ショーンはとりあえず交渉に行く時に、自分らがどういった素性の者だと思わせるか、明日までに考えることにする。
実行はなるべく早くがいいので明日の夜と決めて。
あとはこの港町のことを、カルロスやタヤマに熱心に聞いた。
彼らの知っている範囲であるが、なるべく把握しておきたい。ショーンは明日の夜の予定の他にもう一つの目的のための作戦も頭の中で練っていた。