創作した小説が世界の神話になっていた頃


 

[第二部・第三十一話:海賊と交渉]

 

 一行が甲板に出ると、今乗っている帆船と同じくらいの船が隣に並んでいた。こちらの船は帆をたたみ、向こうもたたんでいる。

 ぶつかるくらい近付くと、檣楼員《しょうろういん》(トップマン)たちが帆桁《ヤード》の端と端をロープで結んで繋げる。

 特に大砲を撃ってくるわけでもなく、大勢で乗り込んでくるわけでもなく、ちゃんと交渉をしてくれるらしい。

 むしろ海賊旗も揚がっていないので本当に海賊なのか疑わしいと思った矢先に、武器を持ち、警戒しながらこちらを見る向こうの船員たちの姿が。

 身なりも汚いシャツやジャケットの奴ばかりで、ただ、数人は妙に立派な服を着ている。恐らく船長か何か偉い立場なのだと予想できる。

 

 こちらの乗組員の一人が“ヴァイキング御一行”に促した。

「向こうに乗り込みますよ。準備はいいですか?」

 酔いはまだ治っていなかったが、平気を装ってショーンが返事する。

「ああ。頼みます」

 海族の乗組員は名を『ポール』といい、腕っぷしの強そうな漁師の男であるが、慎重に話す。

「くれぐれも連中を刺激しないでください。血の気の多い奴らが多いので。オレは船長と知り合いですけど、連中にとってはお構いなしなので気を付けてくださいね。特に……」

 彼の視線の先には朱音と玲菜が居る。

「女性の方は本当に注意してください。奴らはずっと海に居るので女に飢えていますし、お二人は美しいので尚更」

「えっ!?

 美しいと言われて戸惑う玲菜と落ち着いている朱音。

「大丈夫ですよ、私は。自分もレイナ様の身も守れます」

 続けてすぐにレオが言った。

「俺が守る。大丈夫だ」

 ポールはレオの体型や格好を見て、まぁまぁ強そうだと判断して頷く。

「万が一の時はオレも加勢しますね」

 

 

 気を取り直して一行は相手の船に向かった。

 向こうの船に乗り込むには飛び乗らなければならない。ほぼくっつくほど近いが、揺れて動く上に落ちたら海で玲菜は足がすくむ。

 まずポールが渡り、次にショーンが渡った。その後朱音が飛び乗ると向こうの船では歓声が上がる。

 朱音は連中の声を無視して玲菜に声を掛けた。

「レイナ様、どうぞ。私が受け止めます」

 言われて玲菜は、次は自分の番かと顔を上げた。けれどレオが肩を叩いてきた。

「待てよ。怖いんだろ? 俺が受け止めるから、先に行く」

「え? レオ?」

 訊ねる間も無くレオは向こうの船に飛び移ってしまう。白雷とフルドに玲菜を支えるよう頼むと朱音を退かして両手を広げた。

「ほら! 跳べ」

「え、ええ!?

 跳べと言われても、怖くて玲菜が戸惑っていると様子に気付いた海賊共が興味津々に近付いてくる。或いは朱音目当ての連中も居て、鼻の下を伸ばしながら彼女に近付く。

 一人がレオに声を掛けた。

「なんだよ〜。異国の海族ってのは、美形が多いんだな。なぁ? 色男」

 レオは無視したが男はニヤニヤしながら玲菜に手を向ける。

「お嬢さん、可愛いな。オレの方に飛び込んできていいんだぜ?」

 同時に朱音にも「いい女だ」と声を掛けてニヤニヤする野郎共。

 

 その様子に、ポールは慌てたがショーンは頭を押さえる。

 なぜなら、玲菜が怯えたので。レオ様の逆鱗に触れたようであり。

 次の瞬間、玲菜に向けている男の腕を掴んで捻った。

「うわぁああ何すんだ」

 レオは痛がる男の膝を蹴って倒す。

 その様子を見た他の野郎共はざわめき、武器を手にレオを睨みつけた。

 

 一方、朱音も自分に触ってこようとした男の手首を捻り、相手を降参させたことで周りの野郎共数人に囲まれる。

 

 心配したポールが海賊の船長に「止めさせるよう」言ったが、船長は「お前の仲間が先に手を出した」と止める素振りを見せず。しかし、ショーンが心配したのは海賊の命の方だった。慌ててレオと朱音の二人に言う。

「頼むから殺生は無しだ!」

 

 ただ、海賊たちはその言葉を自分たちに対して言ったと勘違いして「殺しはしねぇが、いたぶってやる」と返してきた。

 いたぶられるのはどっちだ。と、ショーンは目蓋を落とす。一人おろおろするポールに「心配は要らない」と肩を叩いた。

 

 朱音を囲んだ男たちはいやらしい目で彼女を見てじわじわと近付いたが心配無用。朱音は「ふぅ」とため息をつき、向かってきた男たちを次々と避けた後に足を引っかけて全員を転ばせる。

「殺生はいけないのよね。さて、どうしようかしら」

 考えながら歩いていると、呆然とこちらを見ている輩の一人が持っている武器に目を付けた。

 それは……いわゆる鞭であり。といっても、先が九本の細いロープが分かれる刑罰用の鞭(通称“九尾の猫”)ではなく、長い紐を編んだ一本のロープ風の鞭。

 朱音はボーッとしている男からその鞭を奪い取って、立ち上がる男たちの方を向いた。

 そして向かってくる連中を次々に打ち倒す。

 華麗な鞭さばきに、見物していた海賊たちを魅了した。

 

 

 一方レオはというと、

 玲菜が自足で跳ばなくても好い方法があると思いついて、自分を囲んでいる連中を白雷に任せることにする。

 すぐさま白雷を海賊船に飛び移らせて入れ替わりで自分が元の船に戻る。

 唖然とする玲菜の横に並び、支えていたフルドを下がらせた。

 戻ってきてしまったレオに、もちろん玲菜は驚く。

「え? どうしてこっちに戻ってきちゃったの?」

 恥ずかしそうに言った。

「だ、大丈夫だよ。最初緊張したけど距離的には跳べる距離だから。レオが受け止めてくれるなら、私……」

 跳ぶ決意を表明したのだが、レオは首を振る。

「いい。俺はもっといい方法思いついたから」

「え?」

 それよりも、海賊たちと戦っている白雷たちが心配でもある。

「白雷さんたち大丈夫かな? 二人とも強いけど船の上で足場が悪いし、いつもの様に戦えないんじゃ…」

 言っている途中で抱きかかえられる玲菜。

「え!?

「俺がお前抱えて跳べば問題ないだろ」

「ええ!」

 思ってもみないことだったので動揺したが、逆に怖くて彼の首にギュッと掴まった。

「嘘でしょ?」

 

「いや、最初からこうすりゃ良かった。こっちの方が手っ取り早い」

 言いながらレオは跳躍して、見事、海賊船に飛び移った。

 

 確かに手っ取り早く済んで、最初からこうすれば良かった感が残る。いや、玲菜が躊躇《ちゅうちょ》せずにすぐに跳べば良かったのだが。

 とりあえず最後にフルドが跳んで皆が乗り移った頃、朱音と白雷は自分らに向かってきた海賊を全員倒し終わっていた。

 二人のあまりの強さに唖然としたのはポールと向こうの船長。特に、朱音は女性でしかも片腕なのに決して弱くはない海賊の男たちが全く太刀打ちできなかったことが不思議でしょうがなく、むしろ鞭で打たれた野郎共は満足げ。

 船上が静まり返った。

 

 その時、向こうの海賊で一番図体のでかい、いかにも強そうな男が一人前に出る。海賊たちは皆「ボンズだ」「ボンズなら奴らに勝てる!」と嬉しそうに話し合う。

 誰かが「ボンズ、やっちまえー!」と声を掛けた。

 すると、その大男は棍棒を持って朱音と白雷に突進してくる。

 それだけで足場が揺れて朱音は体勢を崩しながら構えた。

 とっさに朱音の前に飛び出た白雷は、振り下ろされる棍棒を、装備していた剣で受け止める。

 その、あまりの重圧に剣はたった一撃で刃にひびが入り、振動で手が痺れそうになった白雷は力を流すようにその場から離れる。

 ボンズの棍棒は勢いで床に突き、強さで板に穴が開いてしまった。

 

 見ていたレオは物騒なことを呟いた。

「馬鹿力系か。あんなんで殴られたら白雷の頭が潰れるぞ」

 床に下ろされて隣で聞いていた玲菜は悲鳴を上げる。

「やめて!」

「大丈夫だよ」

 レオは少し悔しそうに苦笑いしながら教えた。

「この中で一番強いのは白雷だぞ」

「え?」

 なぜか言い訳も加える。

「もちろん俺も強いけど。っていうか、俺は二年前よりも強くなったからもしかすると……」

 自分の方が強いかもしれないと言いたかったが、言えずにニッと笑う。

「いや、白雷の方が強いな。あいつは下手すると黒竜より強いから」

 黒竜や朱音は、さすがレオの護衛だからかレオよりも強い気がするし、今は足が不自由だが昔の黒竜はやはり相当強かった印象があるけれども。

「両足がちゃんとあった頃の黒竜より、だぞ」

 そう、レオが言った瞬間――

 

 怪力そうな大男・ボンズの体が回転して倒された。

 物凄く重そうな棍棒は床に落ち、白雷の使っていた剣も床に置いてあった。つまり彼は武器を使っていないことになるが。

 ボンズの巨体が床に倒れると甲板は少し揺れて大きな音が足元に響く。

 どうやら彼は気絶しているようであり。

 何が起こったのか呑み込めずに一同は静まり返った。

 

 レオは玲菜に教える。

「白雷が得意なのは体術だぞ。しかも力技じゃなくて急所を突いたり、体のバネ? みたいなので相手を投げたりするやつ」

「へぇ〜!」

 感心した玲菜がふと父の方を見るとショーンは微妙な表情。

 レオも同じ方を見て察する。

「オヤジの奴、呆れてんな」

 なぜ呆れているのか、考えてレオはハッとした。

「ってか、海賊は交渉する相手じゃねーか。白雷の奴、なんてことしてくれてんだ」

 

 気付いて白雷を呼ぶレオ。彼に注意をしていると、ショーンが近付いてレオの頭を叩いてきた。

「いってぇ!」

「へ、へいか」

 ついびっくりして陛下と呼んでしまった白雷は慌てて口を押さえたが、幸いにも海賊には聞かれなかったらしく。小声で案ずる。

「大丈夫ですか、陛下」

 レオは叩かれた頭を押さえてショーンを睨む。

「何すんだよ! オヤ……ジョージ!」

 オヤジと言いかけて偽名に言い換えたが、彼がジョージと呼んだことでドキリとする玲菜。

(ジョージって……お父さんの名前。ジョージっていうか譲二だけど)

 まるでレオが父を呼び捨てにしたみたいで焦る。

(まぁ、実際にお父さんを呼び捨てにしているんだけどさ)

 そんな玲菜の心の内には気付かずにショーンはレオを呆れた目で見た。

「何、白雷君を責めてんだよ。お前が最初に、向こうに手を出したんだろが」

 白雷は自分のせいで主が叩かれたと思い、ショーンを止める。

「ショ……ジョージ様、私は構いませんので、どうか穏便に」

 一方レオは口を尖らせてムスッとした。

「だってあいつらが玲菜を怖がらせたから、つい」

 気持ちは解る。けれど、大事な交渉がもしもこれで駄目になってしまったら……と思うショーンは頭を掻いた。

「ああ、もう。とりあえず船長の所に行くから。あんますぐに頭に血を昇らせんなよ、頼むから」

 気まずそうに、驚きすぎているポールの許へ行き、その後海賊の船長の前まで歩いて行った。

 

 

「……どうも」

 ショーンが目の前に来ると、海賊の船長は驚きと興味を持ってヴァイキング一行を見る。倒された自分の仲間も見てため息をついた。

「情けねぇな〜ホントに」

 船長は白髪の六十代くらいの男で、歳は取っているが貫禄がある。肌は日に焼けた色をしていて、シミや傷、シワが多い。無精ひげで歯も所々抜けていて清潔そうではなかった。

 不衛生そうなのは仲間も同じく。体からも衣服からも異臭がして、本人たちは慣れてしまっているよう。

 ただ、船長だけは立派な赤いコートを着ていて、まるで貴族から奪ったかのような装い。……いや、実際そうなのか。

 短剣や珍しい武器をたくさん所持していた。

 おまけに声はしゃがれている。

 船長はショーンに質問した。

「で? お前たちはなんだっけ? ポールの奴から伝言聞いてたけど、西方のヴァイキングとかいう海族?」

「ああ、そう。海を渡って品を集めて交易をしたり商売をしている。だからとにかく珍しいもんが欲しくてな。同じ海族の仲間として知り合ったポールにあんたらの話を聞いて興味を持ったんだ」

 話を聞いた船長は「ふ〜ん」と頷いてニヤッと笑った。

「おれらが海賊でもかい?」

「ああ。海賊の方がお宝持っているからな」

「怖くねーのか? もしかすると襲われたかもしれねーのに?」

 試すように訊く船長にショーンは「フッ」と笑って答える。

「大丈夫。さっきの見ただろ? 俺たちは強いからな」

 聞いて船長は大声で笑い始めた。

「がーっはっはっはっはっは! 確かに! こっちから仕掛けても返り討ちにされただろう」

 

 これはもしや好感触か?

 この分なら交渉に持ち込めるとショーンが思ったのも束の間。

 船長の方が先に告げてきた。

「でもなぁ。悪いが、こっちも簡単にお宝を譲れねーんだよ」

「もちろんタダではなく、金は結構あるから、売ってもらえれば買いたいが」

 ショーンはカルロスの財産をアテに大金の話をちらつかせたが、船長が言っているのはそうではなかった。

「それだけじゃなくてな。おれが言いたいのは、物を売るか売らないかの勝負をしたくてな」

「勝負?」

 まさか決闘とか飲み比べか何かの案が出るかと思ったが、違う勝負だった。

 

「賭博の」

 

 ここにきて、ギャンブルが出された。

「賭博か……」

 ショーンは考えたが、目的達成のためには受けるしかないか。

 

「なーに、簡単なことさ」

 ちゃんと返事をしていないのに船長は話を進める。

「コインの裏表を当てる単純な賭けだ」

 彼は自分の着ているコートから一枚のコインを出したが、ショーンの目を見て「ククッ」と笑った。

「なんだよ。イカサマするとでも思ってんのかぁ? そんなくだらねぇことはしねぇよ。勝負がつまらなくなる」

 そう言って自分のコインをしまうとヴァイキング一行に促した。

「心配ならお前らの持っているやつでいい。それなら問題ないだろ。コインがあったら出してくれ」

 するとちょうど所持していたフルドが名乗り出て、鞄からコインを取り出した。

「これで大丈夫ですか?」

「ああ、ありがとう」

 受け取ったショーンは賭け勝負をする流れを仕方ないと思い覚悟を決める。ルールを確認した。

「で? 投げて回転させたコインの裏か表を当てるっていう勝負だろ?」

「そうだ。お前らが勝ったらお宝を売ってやる。反対におれらが勝ったら……」

 船長はヴァイキングを見回して玲菜に近付いた。

 サッとレオが自分の後ろに下がらせようとしたが、その前に口を開く。

 

「この娘をおれらの仲間にする」

 

「はぁああああ!?

 レオは激怒した。

「何言ってんだお前! エロジジイか」

 船長は次に朱音の方も見て残念そうにする。

「そっちの美女もいいけど、寝首をかかれそうだから。か弱い娘の方がいい。どうだ? 大事にしてやる」

 玲菜を隠してレオは怒鳴った。

「駄目に決まってんだろ!! ふざけるのもいいかげんにしろ!!

「別にふざけていねぇよ。それとも交渉は決裂させるか?」

 理不尽な船長に危うくレオが手を出しそうになった頃、ショーンが二人の間に入って自分の気持ちは抑えつつ指摘した。

「いや、さすがにそれは割に合わないだろ。勝った時の報奨に差があり過ぎる。それに、れい……うちの船員は誰一人譲ったりはしない。悪いけど」

 もっともな意見であるが相手は海賊なので伝わるだろうか。

「そうじゃなくてな、もっと他の物を……」

 ショーンが代案を出していると、レオの後ろに居た玲菜がおずおずと顔を出した。

「あの……」

 下向き加減で自分の考えを告げる。

「さすがに仲間にはなれないですけど、代わりに皆さんに何かご馳走するとかじゃ駄目ですかね?」

「何言ってんだ、玲菜! 隠れてろ」

 レオが止めても続ける。

「ご馳走って、大したものは作れませんし、材料にもよるけど。もしかしたらお菓子とか」

 さすがに安っぽいか? と玲菜は思ったが……

 

「かし? 菓子だと?」

 聞いていた海賊たちがざわめく。

「菓子……食いてぇ」

「オレも」

「全然食ってねぇ。食いてぇぞ」

 なんと、意外にも食いついている。

 

 船長は仲間の反応を見て決断した。

「決まりだ。但し言ったからには賭けは本人であるお嬢さん自身がやれよ」

「え!?

 当然レオとショーンは止めようとしたが、その前に玲菜が勢いで返事をしてしまった。

「いいですよ!」

 

 

 

 ――というわけで。

 コインの裏か表を当てる勝負で賭けが成立。

 玲菜が勝てば宝の売買権を、船長が勝てば玲菜の手料理権を得る。

 レオは心配して、緊張している玲菜に提案を出す。

「大丈夫かよ、お前。今からでも辞退しろよ、代わりに俺が勝負するから」

 確かに負けると菓子を作らなければいけないばかりか、お宝を買うことができなくなってこの船に来たのがすべて無駄ということになってしまう。海賊計画は失敗に終わり、残念なことに。

 責任重大なところがつらいが、それでもレオに代わりにやってもらうのは却下する玲菜。

「うん、ありがとう。でも大丈夫だから」

 不安も大きいけれども、賭けに弱いレオに頼むよりは幾分かましだ。

 

「勝負は一回だ。どちらを選ぶかは先にお嬢さんに選ばせてやる」

 船長はフルドのコインを持ち、心の準備はいいか玲菜に訊ねる。

「いいか? 始めるぞ」

 

 玲菜はごくりと息を呑みこんで覚悟を決める。

 いざ、賭け勝負に挑んだ。

「はい。いいです!」

 

 コインは高く宙に上がり回転して落ちてきた。

 

「さぁ、どっちだ?」

 

 運命の一言を玲菜は目をつむりながら言い放った。

「う、裏ぁ!」

 

 

 

 ―――――

 

 海賊船に乗り込んでから大分時間が経った頃。

 玲菜は、船首の上甲板から階段を下りた先に在る狭い調理室に居た。

 ただでさえ狭いのに物で溢れ返っていて、余計に足場を失くしているその場所で、悪臭に耐えながら料理をする。

 作っているのは菓子であり。貯蔵庫から材料を探して、有る物だけで甘味物を作っていた。といっても――決して勝負に負けたわけではなく。

 実は、賭けは見事に玲菜の勝利。ショーンによる海賊のお宝の品定めが始まった。

 その、自分にとっては空いた時間に、負けて菓子が食べられないと嘆く海賊たちのために作ってあげることにした。中には本気で泣いていた者も居たし、船の料理人やフルドに手伝ってもらいながらなのでさほど大変ではない。

 ちょこちょこ船員やレオが覗きにきては、様子を見て甲板に戻っていった。

 

 

 その頃、ショーンはというと、彼らが船倉から出してきたお宝を興味津々に眺める。ここまでやって、娘が賭けまでして、肝心のお宝に価値が無かったらとんだ骨折り損になる。ショーンはとにかくじっくりと見て、本当のお宝を見逃さないようにした。

 甲板に並べられているのはほとんどがいわゆる“金になる宝”であり、商船等から奪った陶器や銀、アクセサリー、布、嗜好品ばかり。中には使い道のないガラクタも混ざっていたし、プラスチックやアルミ缶らしき旧世界の遺物も見つかったが少量で使える気がしない。

 

 

 しかし、思ってもみなかった物が……いや、心の底で期待はしていたが、まさか本当にお目にかかれるとは思っていなかった物が現れた。

 

 それは――考古研究中に調べていた前々世界『精霊の世界』の代物だった。


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