創作した小説が世界の神話になっていた頃


 

[第二部・第四話:謎の二人組]

 

 多分玲菜は心も体も疲れ切っていて。

 ぐっすりと長い眠りに就いていた。

 

 自分の頭に触れる手に気付いたが、起きずにそのまま眠り続ける。

 

 

「レイナ」

 彼の声が聞こえた気がしてふと目を開けると、自分の唇に彼の唇が触れたのでまた目を閉じる。

 閉じながら、長く眠った……長い夢を見ていたと、ぼんやり思う。

 すべて夢だったんだと。

 少し怖くて、衝撃的な夢を見た、と。

 でも大丈夫。

 今はこうして彼と幸せな朝を迎えることができた。

 きっと……もうすぐ使命を実行しなくちゃならないから、そのことが頭にあって変な夢を見た。

「もう昼だぞ。起きたか?」

「うん、起きた」

 幸せな気分でゆっくりと目を開けると。

 目の前にあった彼の顔に大きな傷跡があったので。

「レ、レオ! どうしたの? その傷」

 訊いた瞬間に、今まであった出来事が夢ではないと悟る。

 だって、彼の黒い髪が長くなっていたから。

 さすがに二年経たないとここまでの長さにはならないだろうと時間の経過を突き付けられる。

「昨日言ったろ? 忘れたか?」

 そう言うレオの胸に玲菜は顔を押し付けて、彼を仰向けに、自分が上に乗る形にもっていく。

「うーーー」

 二年の歳月に泣きたい。昨日いっぱい泣いたのに。自分の知らない時間を取り戻したくて玲菜はしばらくレオの胸に顔をうずめる。

「え? え?」

 一方、あまりない彼女の行動にレオは戸惑ってどう対応するか悩んだ。

 二人ともあのまま寝たので裸同士だし。落ち着かない。

 これはこのままもう一回OKという合図なのか?

(誘ってる……んだよな? これ)

 そうに違いない。

 自分は実に二年も我慢して。いや、気分的には二年どころか十年くらい待った気がするから。目が覚めた時、実は夢で彼女が居なかったらどうしようと怖くもあった。実際何度かそういう辛いことがあったし。

「レイナ」

 我慢するのはもう嫌だ。

 会いたいと、何度思ったことか。

 毎晩月を見て「早く満ちろ」と願った。

「レイナ」

 本当に来てくれるのか不安もあったし。

 彼女のことは信じていたが、もしも身に何か遭ったら。扉を間違えたら。

 考えると心配で眠れない日もあった。

「レイナ」

 レオは何度も名前を呼んで彼女の頭を撫でる。

 こうしているだけでも幸せだが、せっかく彼女が誘ってくれているなら昨晩の如く情熱的に彼女を抱きたい。いや、むしろ昨晩よりももっと激しく……

 

 

「レオ! いい加減に起きろよ!」

 

 気分が盛り上がりかけていた二人を我に返らすには十分な声が響いた。

 扉の向こうからそう怒鳴った声の主はショーンで。

 昼になっても中々起きてこないリーダーに痺れを切らした……だけでなく、恐らく一緒に寝ているであろう娘を引き離しにかかりたい気持ちが働いている。

 

 二人はショーンの声にビクッとなって止まり、慌てて服を着始める。

 特に玲菜は、ショーンが父かもしれないと判明したばかりなので頭の中が真っ白になりながらとにかく服を着た。

 レオとの行為がショーンにバレるというだけで焦るのに、父だったならば後ろめたい気持ちが極限に達する。

(ショーンがお父さんだったら、私どうすればいいの?)

 彼は何もかも知っている。レオとの恋愛のことも何度も相談したし、彼の前でみっともなく何度も泣いた。父のことだって……たくさん話した。

 思い出すと恥ずかしさで顔が真っ赤になる。

 彼が父だったならば……

(酷い!! こんなの羞恥プレイだよ。お父さんだって知ってたら言うわけないもん)

 かなり語弊があるが。恥ずかしいことこの上無し的な意味で、玲菜は心の中で嘆く。

「レオ……」

 服を着終わると、同じく服を着終わった彼の腕を掴む。

「ん?」

「話聞いた?」

「え?」

「……ショーンから」

“お父さん”なんて、言えない。

 レオは少し考えて察する。

「あ! オヤジが、親父だっていう話か?」

 やはり聴いているのか。玲菜は顔を赤くした。

「私……知らなくて」

 気まずい。

「あ、ああ、そうだよな? お前明らかに他人として接してたよな? 俺も聞いた時、本当にびっくりして」

 レオは真相を聞いた時のことを思い出しているよう。

「お前が時空の渦に行った後すぐに、オヤジの奴が白状したんだよ。『実は――』って感じにさ。あの時オヤジは拘束された時だったから」

「拘束!?

 まさかの事実。

「え? どうして拘束?」

 一体その時何があったのか。

 そして二年の間に何があったのか。

「そうだな。お前なんにも知らないんだもんな」

 レオは自分で頷き、苦笑いする。

「じゃあこれから昼飯食って、本拠地へ戻りながら順々に説明するか」

「本拠地?」

 玲菜は訊いたがレオは答えずに歩き出す。

 彼が扉を開けようとしたので、玲菜は急いで彼の腕をもう一度掴んでギュッとした。

「ん? どうした?」

 彼女が甘えるなんて滅多にないので驚くレオ。

 玲菜は俯き、小さな声で訳を話した。

「だって、扉の向こうにショーンが居るでしょう?」

 二人きりでここまで来た時は仕方ないのと話を聴きたいのがあったが、改めると物凄く気まずく感じる。

「え? 居るけど。だからってなんで……」

 問いかけてレオは悟る。小声で続きを訊いた。

「あ、もしかして、お前気まずいのか? オヤジのこと」

 無言で玲菜は頷いた。

 

「そうか」

 内心、なぜか妙に嬉しくなるレオ。

 こんなこと、一度も無かった。

 彼女がショーンに気まずいからと自分に甘えるなんて。甘えるというか、頼るというか。

 彼女はいつもショーンばかりを頼っていた。

 父親だと判明して、それが加速すると思いきや。まさかの。

「気まずいなら、俺の後ろに隠れたっていいぜ」

「か、隠れないけど」

 恥ずかしそうに自分に掴む彼女に口元を緩ませながら、レオは部屋の扉を開けてショーンの前に姿を現した。

「遅くなって悪かったな、オヤジ」

 なぜか勝ち誇ったようにショーンにそう告げて歩き出す。

 一方ショーンは、玲菜がレオにくっついて自分の方をあまり見ない様子を見て彼女の心情を悟る。「仕方ないか」と心の中で軽く落ち込み、態度には出さないで二人の後ろを歩いた。

 

 そうして三人は、コンクリート造りの通路を歩いて広い空間に出た。そこにはテーブルと椅子があり、美味しそうな匂いがすると思ったらテーブルの上にたくさんの料理が並べられていた。

「あー腹減った」

 恐らくその量はこちらにおわすお方の正常な量で。レオが席に着くと中年の男性がすぐに飲み物を注いだ。

「あ!」

 その男性に見覚えがあり、思わず声を出す玲菜。向こうも玲菜に気付き、「ハッ」と驚いた顔をする。

 男性はレオの専属の給仕。当然玲菜の顔も知っている。二年ぶりにレオの恋人の姿を見て、多分話は聞いていたようだが、見た目が全く変わっていない様子に驚いたか。

 けれどすぐに表情を戻して玲菜が座る椅子を引く。

「あ、ありがとうございます」

 玲菜はその椅子に座り、照れながらレオと共に食事をとった。

 彼の二年経っても変わらぬ食欲に安心もする。

 

 

 二人が食べ終わると、「やっとか」とばかりにショーンが口を出す。

「じゃあ、出発する用意してくれ。お前ら以外は皆準備できてるから。ホントは昼前に出ようと思ったのに、起きてくるの遅いんだもんな〜」

 最後の方はなぜか声が小さくなって。遅起きの理由が悟れたからだと分かった玲菜は顔を赤くして俯く。

“ショーン”ならまだしも、“父”には絶対に知られたくないのに。

 もう知られている事実。

(ショーンは私とレオのこと、どう思ってたんだろう?)

 そういえば『結婚前にそういうことはしない方がいい』と叱られたことがあったと思い出す。

(あああ!)

 そうだ。あれは父としての言葉だ。

(そうだったんだ。あれ、お父さんとしての注意だったんだ)

 ますます顔が赤くなる。

「レ、レオ」

 玲菜はまたレオの腕を掴んだ。

「出発する用意だって。できてる?」

「あー。歯を磨くくらいだ。俺の準備はフルドが全部してくれてるはずだから」

「フルドさん?」

 もしや彼の従騎士の。

 給仕も居るし、フルドも居るし。今は何かの組織のリーダーだと聞いたが、普通に皇子の時と変わらない気がする。

(でも、多分違うんだ。いろいろ変わっているんだ)

 先ほども本拠地に行くと言った。城でもない、都でもない。

 玲菜は不安になったが、自分も出発する準備をと、彼と一緒に彼の個室に戻った。

 

 

 そして身支度の終わった二人は地上への階段を上って外に出た。

 外は廃墟の町だが。そこで懐かしい人物と再会する。

 待っていたショーンの近くに居たのは、炎のような赤い髪に目つきの鋭い四十代後半の男で。前の戦の時に玲菜が何かと世話になった傭兵団・砂狼の団長である。

(レッドガルムさん!)

「こ、こんにちは」

 挨拶をしつつ、都の噂を思い出す玲菜。

 砂狼団は反乱軍と聞いた。ショーンはレッドガルムとある組織をやっている、とも。レオがリーダーで。

(やっぱり、反乱軍なの?)

 玲菜がそう思った矢先に、近くに居たショーンが説明した。

「昨日言ったけど、おと…俺とレッドガルム殿が組んで抵抗組織みたいなのを始めて。……今はちょっとした軍っぽくなってるけど。レオにリーダーをやってもらってる」

 やはりそうだったのか。

「反乱軍? 皇帝の?」

 恐る恐る玲菜が訊くと、逆にショーンは驚いた顔をした。

「え? 昨晩レオから聞いていない?」

「レオから?」

 

 当のレオは「しまった」という風に目をそらして気まずそうな表情をする。

 その態度にショーンは頭を押さえた。

「説明するんじゃなかったのか」

「するつもりだったけど」

 レオの弁解は声が小さい。

 するつもりだったけど、別のコトに夢中でできませんでした。とは言えないらしい。

 ショーンは呆れた目で彼を見て溜め息をついた。

 

「わ、私は」

 つい、自分まで言い訳をしてしまう玲菜。

「私は訊いたんだけど」

 墓穴を掘った。その先を言えるわけがない。

 訊いたけれども結局彼に身を委ねた。

 

「あーうん、まぁいいよ」

 ショーンは仕方ないという風に頷く。むしろ聞きたくないというか。

「移動しながら話していこうか」

「う、うん」

 玲菜が返事をするとレッドガルムはレオに話しかけた。

「では、情報収集と調査をしますので。特に都と鳳凰城塞の噂を。集まり次第、我々もそちらに向かいます」

「頼んだ」

 どうやらレッドガルムは別行動らしい。彼の他にも部下らしき兵士などが居たが、その者たちもレッドガルムと同様か。

 では、本拠地に向かうのは自分とショーンとレオと……誰だ? と玲菜は思ったが。答えをショーンが言った。

「玲菜。俺たちは車で行くから。近くに隠してあるんだ。同じく本拠地に向かう連中はレオの忍びの護衛を除いてもう出発している。なるべく団体行動しないからさ。目的地までは多分三人だけになる」

「え?」

 今、レオの忍びの護衛と言ったか? つまり忍者のことか。

(もしかして朱音さんや黒竜さん?)

 姿は見せていないが、変わらず見守っていてくれているようで安心する。

(あの二人も居るんだ)

 非常に心強い。

 

「お気をつけて!」

 三人に向かい、レッドガルムがそう挨拶をするとショーンも頷き、返事をする。

「レッドガルム殿も!」

 レオと玲菜の二人に促した。

「さて、行こうか」

 歩き出すショーンの後をついていくレオの服の袖を掴んで玲菜も歩く。レッドガルムが微笑ましくこちらを見ていたので、彼とその周りの者たちに会釈をして進んだ。

 

 

 ショーンは廃墟の町から離れることなく、崩れかけた壁に沿って歩き、やがて屋根の無い一つの建物の中へと入っていった。床は無く、乾いた地面が外と繋がっている。

 その少し死角的な場所に、灰色のカバーの掛かった大きな何かが隠されるように置いてあった。カバーを取らなくてもなんなのか分かる。

「ここに隠していたんだ?」

 玲菜は感心してカバーを外そうとしたが、何かの気配に気付いたレオが彼女の手を止める。

「ちょっと待て」

 ショーンも気付いてその気配の方を見た。先にはヒビの入ったレンガの壁があり。

 レオは腰にある刀に手を添えながらその方へ声をかけた。

「おい! そこに隠れている奴、出てこい」

 恐らく殺気があれば隠れて見守っている忍びたちが先に攻撃をするが、殺気は感じないので様子を見ている。

 

「へーぇ」

 レンガの壁向こうから声が聞こえた。

「この俺が隠れていること、よく見破ったな」

 何者かは分からないが、低い好い声をしていて、どことなく偉そうな雰囲気。

 直後、不安そうな別の男の声が聞こえた。

「わ、わかさま〜」

 

「馬鹿様?」

 レオが訊き返すと「違―う!」という声と共に若い二人の男がレンガ壁の向こうから姿を現す。

 一人は茶色い髪で、長い前髪を少しだけ脇に垂らしてあとは上げて後ろに流した茶色い瞳の男で、比較的がっちりした体格に背もレオより高い様子。ガサツそうなのにイケメン風であり割れ眉、無駄に自信に満ちた表情は身分が高そうにも見える。身分が高そうなのは表情からだけでなく、服装もやけに高そうな刺繍の入った長ベストを着ていることから想像できる。

 もう一人はいかにも従者のようであり、小柄の金髪の男。目が悪いのか、この世界では珍しく眼鏡(ゴーグル風)を掛けていて、他の特徴といえば、髪型がおかっぱ風であることとそばかすが多いこと。なんとなく冴えなそうな雰囲気がある。

 この二人が、出てくるなり得意円満な顔をしていて。

 大柄な貴族風な男の方がレオたち三人を見てニィッと笑った。

「お前ら、怪しいな」

 それはこっちのセリフだ。

 そう思ったが言わずに黙っていたレオは、いきなり無礼にも大柄の男に指を差されて不快な気分になった。

「特にお前!」

 見た目は貴族風なのに喋り方に教養を感じない。……まぁ、人のことは言えないが。

「顔に傷なんて……いかにも死線を潜り抜けてきたような?」

 

 レオは眉をひそめてショーンに訊いた。

「なんだコイツ。オヤジの知り合いか?」

「いや?」

 ショーンが首を傾げると、貴族大男は「まぁ待て!」と話に割り込んできた。

「俺のことが気になるだろ? 俺もお前らのことが気になる! だが名前を訊くにはまず自分の名を先に名乗るのが礼儀だから俺から名乗ろう」

 そう言っておきながら、「但し!」と付け加えた。

「訳あって、本名は名乗れない」

「じゃあ、名乗らなくていい。めんどくせぇ」

 レオはなんとなく不快に感じてあしらったが、貴族大男は慌てて名乗ってきた。

「俺の名は、カルロスだ!」

「若様! それ本名です!」

 即座につっこんだのは従者風の男だ。

 カルロスと名乗った貴族大男は「ああ!」と口を押さえて「待った! 今の無し!」と言ってきた。

 レオはあまりにも面倒臭くなって近くに潜む忍びに命令をする。

「朱音! コロ…」

「ちょっ! 待て! 話くらい聞いてやれ。気持ちは分かるけども」

 慌てて止めたのはショーンだ。

 当のカルロスと従者はコソコソと打ち合わせをしている。

「だから、オスカーって名乗るって言ってたじゃないですか」

「そうなんだよ。失敗したじゃねーか。タヤマ、お前のせいだぞ」

「ええ!? 私の!?

「お前が直前に小声で教えてくれないから。お前の給料、一日分引くからな」

「そ、そんな! 酷いです!!

 

「気持ちは分かるけども」

 ショーンはもう一度告げた。

 一方レオはイライラして連中に言い放った。

「おい、お前ら。去れ!」

 彼らは一瞬止まって。従者の方がいきりたって注意してきた。

「き、貴様〜〜〜〜!! このお方をどなたと心得る! こちらにおわすお方は……」

「いい、タヤマ。俺の正体は言うな! 腰を抜かすから」

 恐らく正体を知って腰を抜かすのは向こうの方だが。ちっともらちの明かない状況を玲菜が打破しようとしてきた。

「あ、あの、カルロス……さん? ところで私たちに何か用ですか?」

「ああ、女。よく訊いたな」

 カルロスは玲菜の方を見て得意顔で返したが、もう一度玲菜を見てその後近付いてきた。

 とっさにレオとショーンが警戒したが。

 特に攻撃的な動きは無く、じっと玲菜の顔を見た後にひざまずいて突然彼女の手を両手で掴んできた。

 

「結婚してください!!

 

「なっ……!!

 むしろ殺気を放ったのはレオの方だ。

 

「え?」

 玲菜はわけがわからず唖然としたし、ショーンも度肝を抜かれた様子。

 従者のタヤマもあっけに取られて。

 カルロスは顔を赤くしながら玲菜の顔を見つめて「好みだ」と目を輝かせている。しかも手の甲にキスをしてこようとしたので、瞬間的にレオが刀を抜いて顔の前に突き出した。

「貴様。何をやっている」

 その声は怒りに満ちていた。

 カルロスは目の前の刃に「うぉおお」と仰け反り、玲菜の手を離す。

「わわわ若様!」

 急いでタヤマが盾になるようにカルロスと刀の間に入った。

「ぶぶぶ、無礼者!」

「無礼はお前だろうが」

 本気だ。本気でレオはカルロスを殺そうと剣先を向けていたが。そこを玲菜が止める。

「れ、レオ! 落ち着いて」

 

「レオ……?」

 

 驚いて訊き返したのはカルロスだ。

「じゃあ、お前が……反乱軍の首領の『レオ』?」

 レオが眉をひそめると立ち上がって言う。

「お、俺は! 反乱軍の首領に会いたくて、ここで待っていたんだ。この辺りでよく砂狼団らしき連中が出没するって聞いてたから」

 改めて三人を見て嬉しそうにした。

「お前らの姿見たらさ、なんとなく直感で『反乱軍の仲間っぽいなぁ』って思って話しかけたんだけど。まさか『レオ』本人だとは思わなかったぜ」

 タヤマが彼を乗せる。

「さすが若様! 勘が冴えすぎです!」

「ふ〜ん、そうか」

 レオは不機嫌そうに返事した。

「分かった。会えて良かったな。……じゃあ、去れ」

 首領の見下した眼と妙な迫力に怖気付く二人。

 しばらく固まっていたが、「ハッ」としてカルロスが言い放った。

「俺様が仲間になってやる!! ……じゃなかった、俺を仲間にしてくれ!」

「若様、そんな下手《したて》に」

「タヤマ、いいんだ。俺は反乱軍に入る為だったら腰を低くしたって」

 

「断る」

 

 まさかの返事を呑み込めない二人。

「え?」

 面倒くさいが、レオはもう一度告げた。

「断る!」

「えええ!?

「用は済んだな、帰れ」

 あまりの冷たい返しに呆然とする二人を見て、玲菜は気の毒そうに感じた。

「れ、レオ」

「なんだよ」

「せっかく仲間になってくれるって言ってるのに」

 反乱軍とやらの現状は分からないが、味方が増えることはいいことだと思った玲菜はレオに訊いたが。レオはムスッと顔を赤くしてそっぽを向く。

「別にいらねーよ。っていうか、やけにこいつらを庇うじゃねーか、レイナ」

「え? 庇う?」

 そんなつもりはないが、彼がなぜか怒っているようなので玲菜は戸惑う。

「なんか怒ってる? レオ」

「別に」

 絶対怒っている。

 一方、二人のやり取りを聞いてカルロスとタヤマはいろいろと察した。

「分かったぞ、タヤマ」

「はい、私も分かりました」

 タヤマの理解とカルロスの発見は別のことだ。

「あの子の名前、レイナっていうんだな。それに優しい」

「は?」

 そうじゃないだろ! 二人は恋人っぽいだろ! という言葉を呑み込んだタヤマは主人の理解力の少なさに合わせた。

「ああ、そうですね、ば…若様! 素敵な女性です」

 

 その、四人の状況を見ていたショーンは、打算的な考えでカルロスに訊いた。

「ところでカルロス殿。どうして反乱軍に入りたいと?」

「オヤジ! 訊く必要ねーよ」

 個人的感情で気に食わないレオは注意したが、よくぞ訊いてくれたとばかりにカルロスは発表した。

 

「俺は! シリウスが大っ嫌いなんだ!」

 

「ええ!?

 驚き、レオの顔を見る玲菜と無反応のレオ。その様子に思わず笑ってしまうショーン。

 カルロスはなぜ笑われたのか分からなくて首を傾げた。

「お、面白かったのか? ……オヤジ? 殿」

「若様!」

 タヤマはカルロスに「あの年配の男性は『オヤジ』という名前ではなく恐らくレオの父親」だと耳打ちしたが、レオはショーンのことを勝手に『オヤジ呼び』されてますます立腹した。

「オヤジのこと、オヤジって呼んでいいのは俺とレイナだけだぞ!」

 相変らずガキっぽいというかなんというか。

 しかもこれでは勘違いされるだろうと玲菜とショーンは頭を押さえて、案の定にカルロスは勘違いした。

「ん? レオ殿とレイナさんは兄妹だったのか」

「違う! 俺とレイナは……」

 レオは説明しようとしたが、面倒臭くなって言葉を止める。

 タヤマだけは『きっとあの二人は夫婦もしくは婚約者』だとほぼ正解を悟り、しかしカルロスには言わないでおく。更にレオの心情と場の空気を読んでカルロスに促した。

「若様。ここは一先ず戻りましょう。首領のレオ様は何かに忙しい様子。ここは出直して改めた方が交渉しやすいというものです」

「だが……」

 不覚にも断られる返事をもらったような、と心配するカルロスを励ますタヤマ。

「心配無用です。若様の財力や身分は反乱軍にとって大きな魅力のはず! 必ず必要とされますから。ただ、物事にはちょうど良い時期もありますゆえ、どうか焦らずに」

 近くで聞いていたショーンは感心した。

(へぇ。主人はともかく、従者君は仲間に入れたら役立つかもなぁ。参謀とか、交渉とか)

 中々の察し力と判断力がある。おまけに話術も。

「そうか」

 カルロスは首を捻りながら渋々とその場を去って行き、従者のタヤマはこちらに会釈をする。

 

 少し遠くに離れてからレオが念の為とカルロスに声を掛けた。

「ところでお前! シリウスのことが嫌いなのはいつからだ?」

 振り向いて、得意げに答えるカルロス。

「昔からだ! あいつが戦場で活躍していた皇子の頃から」

 というと、レオを大嫌いだったという宣言になり。まさか本人を目の前にして言っているとはもちろん思っていない。

 レオはニィッと笑った。

「その言葉だけは気に入った! お前の名前、憶えておいてやるぞ。バカルロス!」

 堂々と宣言するレオに、遠くへ行ったタヤマがわざわざ全速力で戻ってきて注意した。

「馬鹿ではありません!! カルロス様です! 気持ちは分かりますが、次は間違えないでくださいね!!

 さりげなく本音が隠れていたのは気のせいか。

 しかし、レオが「分かったよ」と頷くとタヤマはまたお辞儀をして主人の許へ駆けていく。

 

 そうして、謎の二人組の姿が見えなくなって、ようやく三人は車に乗り込むことができた。


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