創作した小説が世界の神話になっていた頃
[第二部・第六十五話:正体]
――多分、玲菜に関しては『死ぬ運命だった』とは少し違う――
「貴女のオーラは、死者に似ています」
耳元でそう言われた気がして、玲菜はハッと目を開けた。
「……え?」
しばらくぼんやりした後、今自分は眠り、夢を見ていたことを思い出す。
そうだ。今、自分は起きた。
聞こえたと錯覚した声は夢の中で聴いた言葉だ、と。
分かってまたぼんやりとする。
ガタゴトと揺れていて、前に座席があるし、多分ここは車の中だと分かる。
運転しているのは父。
「玲菜。ぐっすり寝てたな」
声を掛けられて反射的に訊ねた。
「うん。お父さん、ここどこだっけ?」
外に広がるのは見慣れない赤い砂漠だったので、父と旅行に来たにしては日本っぽくない。
ただ、何かに動揺した父は急ブレーキを掛けて振り向いた。
「え!?」
一方、急ブレーキの反動で体が大きく揺れた玲菜はびっくりして怒鳴った。
「もう! 危ない! なんで急ブレーキしたの? シートベルトしてなかったら危なかった」
言っている途中で横にあったものが前座席にぶつかったので、案の定に荷物が転がったのかとため息をついて見る。
しかし、ぶつかったのは荷物ではなく、人間の男だったので……
呆《ぼ》けていた玲菜は瞬間的に我に返った。
「あ!! レオ!!」
前座席に顔をぶつけたのは、シートベルトをしていなかったレオであり、隣の席で寝ていた様子。ただ、ぶつけたことで目を覚まして「う〜〜」と頭を押さえる。
起きて「なんだよこれ」とすぐに状況判断ができずに混乱していた。
「いってぇ〜〜〜。なんだ? 急に停まったのか?」
一方、玲菜は若干錯乱状態。
「ちょっと待って? 私寝ぼけてた」
今までの言動に対して恥ずかしそうに言い訳した。
「私、今、寝ぼけていて。なんか……起きた時、『現代』だって思っちゃった」
この場合の現代は2012年のこと。
「車に乗っていて、ショーンがお父さんだと思って」
そこは間違ってはいない。
『お父さん』だと間違われた父親は複雑な心境になったが隠した。
「ああ、そうなのか。俺も……」
玲菜にいきなり『お父さん』と呼ばれて動揺した。とは言えない。
「玲菜がなんか変だったからさ、車を停めたんだ。急ブレーキになって悪かったな」
「なんだよ、くっそ」
頭をぶつけたのは自分にも原因があるのに、ブツブツと文句を呟いていたレオはふと、遅めのつっこみをした。
「っていうか、オヤジが『お父さん』で合ってんじゃねーか、玲菜」
彼は時折、鋭いつっこみをする。
「っつーかさ、お前、未だにオヤジのことショーンって呼んでんのかよ。いい加減父親認識してやれよ」
「し、してるよ!」
とっさに娘は返した。
「父親認識しているもん!」
聞いたショーンが目を丸くして直視するので言いづらい。
「ただ――」
「なら問題ないだろ。『お父さん』って言ってやればオヤジも泣いて喜ぶんじゃね?」
「何言ってんだ、泣くとかそんな……」
顔を赤くして否定したショーンは、よく見るとすでに目が潤んでいるので恐らく泣くはず。
けれど、いつまでも恥ずかしがっていても仕方ない。
その場のノリみたいなのは嫌だが、一度言ってしまえばきっと昔のように戻れるかもしれない。この世界に来て、父だと判明してもうずいぶん経った。
ショーンを見ると、「呼んでほしい」オーラが物凄く伝わる。
(ん? オーラ?)
玲菜は一瞬何かを思い出しかけて、しかし意を決して『お父さん』と呼んでみることにした。
それなのに、きっかけを作ったレオが余計なことをバラす。
「ホラ玲菜、『お父さん』って呼ぶ練習してたじゃねーか」
「え?」
父の反応に、恥ずかし過ぎた玲菜は即否定した。
「してない!!」
顔を真っ赤に涙目で。
「してないよ、も〜〜〜〜〜」
駄目だ。言えない。
「もう、どうでもいいでしょ!」
せっかく言う気になっていたのに。恥かしさに負けてはぐらかした。
「もういいからさ! いつまでも停まってないで運転してよ」
「あっ……ああ」
ショーンは残念そうに向きを前に戻してアクセルを踏んだ。
「悪かった。行こうか」
微妙な雰囲気の中、車は荒地を進む。
玲菜の誕生日の次の日。過剰な見送りの鳳凰城塞《ほうおうじょうさい》を出た三人は車に乗ってまた森の預言者の家を目指していた。
今は付き人だった大男・エドしか住んでいないはずだが、情報を得るために向かっている。
情報というか方法というか……レオの背中の刻印の呪いを解く鍵があればいい、と。
その間、奪還軍はバシルに任せていて、更にアスールス奪還の作戦も練っている。新しく入った兵も大勢いて、彼らは訓練を行う。また、鍛治職人は鎧や武器の製造を始めた。
いわゆる戦の準備期間であるが、軍総隊長自ら旅に出てしまうのは何事かと思われども、季節が夏になってきた今、襲撃は無いと予想される。まして、偽皇帝らはまだ混乱中なはず。
実質、『今の内』の行動であった。
出発して三日目。大して珍しくもなくなった景色に飽きて寝ていた玲菜は、起きて寝ぼけて思わぬ流れになりかけたが元に戻り、車の窓の外を眺める。
ボーッと眺めながら、先ほど見ていた夢を思い出した。
(ああ、そう、オーラだ)
預言者の家に向かっているからか、以前行った時のことを夢に見た。
最初に行った時のこと。
あの時は、自分が『創世神』だと言われた。
(オーラが死者っぽい、みたいなことも言われたよね)
この世界の人間とは違うとかなんとか。
(そりゃそうでしょ。この時代に生まれた人間じゃないし)
死者っぽいというか、『死者に近い』だったか。
今でもたまに不安に感じることがある。
自分は、この世界に拒まれていないだろうか。
或いは、父のように、実は元の世界に戻る運命ではないだろうか。
(って、考えても意味無いよね)
もうすでに眠りに入ってしまった隣の彼を見る。
彼ならきっと……
(「運命なんて変えてやる」って言いそう)
現に、前に言ったことがあるような。
ただ、予言に関して言えば、変えようとしたのに変わったためしは無い。それでも彼は宣言するだろう。
『運命を変える』と。
(本当にシリウスみたい)
最初は見た目以外似ていないと思ったのに、段々似てくるような気がするのは気のせいか。
まぁ、彼は神話が好きらしく、たまに敢《あ》えて真似することがある。
(でも変だな。あの塔の上で、レオは「シリウスの真似でセリフ言った」って言ったのに、私にはレオが先だったように感じた)
まるで、未来を思い出しながら小説を書いていたような――
それを思い出して涙が出た記憶。
『使命』を果たしに行く数日前。夕日に照らされたあの塔で彼は言った。
必ず戻ってきてくれ。俺はずっと待っているから
お前の帰る場所はここなのだから――と。
(私は、小説を書く時、あの時の記憶があった?)
――分からない。
先の不安からか、玲菜はいろいろなことを思い、やがて眠りに就いた。
車の揺れは心地良く、気付くと大分時間が経っている。
休憩して運転を交代して、町に寄り。たまに珍しい景色も見て、たわいない会話をする。
地図に印を付けた泊まれる集落には、日が暮れる前に向かう。夜は疲れを癒してよく眠った。
天気はおおむね良好。あまりに暑い時は窓を閉めてエアコンをつける。
玲菜が新しく持ってきたCDも、何度も何度も繰り返し聴いていると、さすがにレオも憶えてきた。
「この女の声、結構好きだぞ。歌もなんかいい。シーディーには聞き慣れない言葉もあるけど、お前のいた世界を空想できて面白いな」
ただ、恋愛の言葉が多いことを彼は指摘する。
「『好き』とか『会いたい』とか、同じような言葉ばかり言っている。町に居る吟遊詩人《ぎんゆうしじん》のやつとは大違いだよな」
町に居る吟遊詩人はそれこそ、風刺的な歌や民謡等を歌う。物語風のものもしばしば。
「あと、何の脈絡もなく、突然わけわかんねー言葉出てきたりとか多い。しかも何度も」
「え? そーかな。昔の歌だけど、私は歌詞好きだよ」
「別に嫌いじゃねーけど」
玲菜と二人で喋っていると、運転席のショーンも入ってきた。
「俺も最初、レオと同じこと思った」
『現代』の音楽のこと。
「でも不思議と聴いていると好きになるな。まぁ、俺の場合は全部純玲さんに勧められた曲だけど」
ここで惚気《のろけ》が入った。
「スミレさん、ねぇ」
玲菜の母親なのでレオにも興味がある。
「そういや、自分の妻なのになんで『さん』付けなんだ?」
素朴な疑問。
「え?」
照れくさそうにショーンは答えた。
「年上の綺麗な人だったから。でも、呼び捨てで呼ぶ時もあったよ。向こうも俺のことはショー……」
危うく『ショー君』と呼ばれていたと言いそうになって口をつぐんだが、娘はそれどころではなくびっくりした。
「お母さん、ショーンなんて呼んだことないじゃん!」
「そうだよ。娘の前ではお互い『お父さん、お母さん』で呼んでいたから。あと、他の人の前では『譲二さん』とか」
「ジョージ!?」
反応したのはレオだった。
「ジョージって……ああ、そうか。そうだって言ってたな」
「ああ。アルテミスの恋人で、俺の先輩の名前。向こうの世界では偽名として借りていた」
二年前に一度、ショーンの正体がジョージではないかと朱音に疑われたこともあったが、むしろ逆というか……“向こう”の世界の話であるが。
(もしもジョージが生きていたら)
ショーンは考える。
もしも愛しい恋人が生きていたら、アルテミスは絶望のまま預言者《シドゥリ》にはならなかっただろう。
自分も、戦争を終わらせようとアヌーの結晶石を盗まなかったかもしれない。
そして、過去へ行って先輩の名を借りることも無かった。
同時に彼女《すみれ》とは出会わなかった。
(それは嫌だ)
もしもなんて考えない方がいい。
ただ、本当に仮にそうだとしたら――玲菜は生まれなく、この世界はどうなっていただろうか。
世界は壊れず、あの日の続きで動いて、レオは……
(レオは……!?)
今、一瞬、何かが頭を過《よぎ》って動揺しそうになるショーン。
レオはどうなっていた?
本当に好きな相手と出会わず、レナと結婚していたのか? 予言の通りに。
いや、神話のように?
それとも、そもそもサーシャが皇帝に見つからずにレオも下町でずっと暮らしていたなんて未来はあっただろうか。
(いやいやいや、見つかるのは時間の問題だろ)
ショーンは首を振り、やはり『もしも』なんて考えても無意味だと頭の中を切り替えた。
いつの間にか会話も後ろの二人で喋っていて、CDの話に戻っている。
和やかなまま車移動は続き、ショーンは先ほど自分が考えたことを忘れ去ろうとしていた。
しかし、森の預言者の家で、また思い出すことになる――。
*
―――――
ついに、出発して十一日目。予定より一日遅れたが、預言者の家のある森の入口に到着した。
近くに車を隠し留めて、昨夜は傍にある村に泊まった。
ずっと天気は良かったのに少し怪しい雲行き。朝なのに薄暗く、森へ入ると更に暗くなるので少々不安だ。
ショーンは地図を確認した。
「ここへは何度も来ているし、大丈夫だろ。降られる前になんとかアルテミスの家に着きたいな」
準備は万全なはず。
ただ、ショーンはレオに『シリウスの剣』も持たせる。「絶対に使うな」と念を押しながら。レオの呪い(?)は剣から受けたものであり、一応持っていった方が良いだろうと感じる。
レオは久しぶりに手に持つ剣を背負って促《うなが》した。
「ああ。早く行こうぜ」
ショーンを先頭に、玲菜、レオの順で歩く。
二年前と変わらぬ森は、少し不気味に風が木をざわめかしていた。
*
やがて……休憩を何度もとったり、ゆっくり歩いたり、なんだかんだで大分時間が経って、時刻は夕方。陽が延びているせいかまだ少し明るい頃、森の木々に隠れる預言者の家が見えてきた。幸い心配していた雨は降らず、逆に雲の切れ間から夕陽が射してくる。
ペット用の籠で寝ていたウヅキが起きて毛を逆立てたと思うと、茶色いローブで身を隠した大男・エドと女性が家から二人で出てきた。
「え!?」
三人が驚くのは無理もない。一瞬アルテミスかと思ったが、そんなはずはなく、そもそもエドが預言者の家に一人で住んでいると思っていたから。
レオは見たまま捉《とら》えて嫌な気分になった。
「エド! お前なぁ……! シドゥリの家で別の女と暮らすなんていい度胸してんじゃねーか」
けれど、よく見ると女性は見覚えがある姿で……
「あれ?」
三人とも呆然《ぼうぜん》とする。
前にレオが見たのはグリーン町。ただ、一瞬、目の錯覚のように見えた姿であって、よく見るとタチアーナだったというオチであるが。
全く同じ姿の女性を、玲菜とショーンも見ている。どこかの集落で夕方に見かけた女性。日が暮れると同時に居なくなってしまった不思議な人。
金色に近い茶色いまっすぐな髪は腰ほどまであり、緑色の瞳の美しい顔立ち。年齢は三十歳前後か。清楚な淑女《しゅくじょ》という雰囲気がある。
そして……似ていないというか、むしろ正反対なのに、なぜか凄くタチアーナと被る。
白いローブを着ているその女性は優しく微笑んだ。
「私も今来た所なんです。先日もお会いしましたね、皆さん。……いいえ、この姿では初めてかしら?」
死んだ人間を見るかのように止まっているショーンに顔を向けつつ。
「ショーンさん以外は」
「シドゥリ……いや、タチアーナ!? その姿は……?」
半分放心状態で彼女を見るショーンは、先日イナンナと称したタチアーナが言っていた言葉を思い出す。
『私たちの生まれ変わり』と。なぜか複数形だったので引っかかっていた。
「え? タチアーナ!?」
レオと玲菜は、鳳凰城塞での夜にショーンがタチアーナと話をしたことを知らない。
第一、見た目が違う。
「何言ってるの? タチアーナさんじゃないでしょ」
確かに似た雰囲気だが、どう見ても別人なので当然の反応をする玲菜に、目の前の女性が首を振った。
「いいえ。私はタチアーナなんです。すみませんね、混乱させてしまって。後で判りますから」
「はあ?」
レオは失礼ながらも彼女の胸を見る。
「いや、違うだろ」
タチアーナといえば巨乳が特徴みたいなものであって、ローブに隠れているとはいえ、大きさが違う気がする。巨乳は他にもいるけれども、今のところ彼女を超える女性を見たことがない。
「ローブを脱いでくれれば、本人かどうか判断……」
真顔で言うレオをぶっ叩く玲菜。
「いってぇ!!」
大体、玲菜の前で大きな胸の話というのは、しないのが鉄則であり、どうしてもというなら慎重を要す。まして、レオの言い方は下心があるように聞こえるので、本人にその気が無くても無礼であった。
頭を押さえながら彼は言い訳する。
「勘違いすんなよ。タチアーナかどうか確認するだけであって、俺が好きなのはお前の胸だけ……」
今度は親ばか男が代わりに叩いた。
「いっってぇっっ!!」
悪気が無いのは分かるが、男親的にそういう話は聞きたくない。
「ホンットに女心がわかんねーやつだな」
娘は穴があったら入りたそうな顔をしている。
さておき、三人の様子をあまり気にしていないのか、エドは平然と促してくる。
「一先《ひとま》ず家に入りましょう。茶を出します。ショーン様たちは私に用があって来たのですね」
皆を家の中に通してきた。
そして居間に着くとテーブルの席に座らせて居なくなる。しばらくすると紅茶を持ってきて皆に配った。
「相変わらず早いよな、お前」
来客が多そうでもないのに、茶の用意が早いと感心するレオと「ありがとうございます」と礼を言う玲菜。
ショーンも「どうも」と礼を言って、一口飲んだ白ローブの女性は味を褒めた。
「相変わらず美味しいですね、エドの淹《い》れたお茶は」
それにはレオも頷《うなず》く。
「俺がサイ城に戻ったらお前を宮廷の給仕にしてやってもいいぞ」
「遠慮します。私はシドゥリ様の家を守っていきたいので」
考える余地は無いらしい。
まぁ、冗談で言ったのだが、レオはコップを置いた。
「じゃあ、いきなりで悪いけど、まずここへ到着した時からの疑問を訊きたい」
白ローブの女性を見る。
「お前……あなたは何者だ? 俺たちの知っているタチアーナとは違うようだが、ただ同名なだけ? なぜここに居る?」
「そうですね」
ショーンが口を挿《はさ》もうとしたが、女性は首を振り、目をつむった。
「私はタチアーナといいます。アルテミスの姉で、かつて預言者・シドゥリと呼ばれていました」
「え!?」
アルテミスの家族は全員死んだと聞いた。それに、彼女の姉だとすると歳が若すぎる気がする。
玲菜は思い出す。
(アルテミスさんは、確か……三十代後半だったような)
アルテミスはアヌーの腕輪の力を使うことで体が老化していき、亡くなってしまったが、実年齢は三十代後半と聞いた気がする。目の前の女性は三十歳前後に見えるけれど、まさかマリーノエラのように若作りをしているのだろうか。
(亡くなってなかったってこと? でも……)
実は家族が生きていたとしても、預言者だったのに目も朽《く》ちていないのが不思議だ。
目が朽ちるのはアヌーの腕輪を填めて“視える”力を得たことによる代償に思えたのに。
ショーンを見ると、父は考え込むようにして頷く。
「俺が昔会ったアルテミスの姉と見た目が同じだよ。あの頃と変わっていない。ただ、あの頃目には包帯を巻いていた」
ではやはり、朽ちていたということになるのか。
(治ったってこと? 預言者を辞めて?)
疑問を感じた玲菜は、『治った』というのも不思議でならないし、亡くなっていなかったということも腑に落ちなかった。
本来、腕輪が外れるのは死す時だったと思うし、巫女の力か何かを継承するのも亡くなってからだったような。
一体、どうなっているのか。
自称タチアーナの女性は、窓の方を見て立ち上がる。
「ちょうど良かった。説明するより、見てもらった方が早いですね」
そう言うと、窓に近付く。
じっと何かを待つようにたたずんだ。
「もうすぐですね」
何がもうすぐなのか。
「誰か来るのか?」
眉をひそめてレオが訊ねると首を振って微笑む。
「貴方は見たことがあるはずです」
「え? 俺が?」
「ええ。前に、その瞬間を」
レオが首を傾《かし》げたのも束の間。
次の瞬間には女性の髪の色が変わる。金色に近い茶髪だったのが、赤に近い茶色に変わっていった。しかも、まっすぐな髪質が波打つ髪に変化する。
同時に瞳の色も緑から赤に。
それはまさに――皆の知る“タチアーナ”の見た目だった。
そして……白いローブの胸元が膨れたかと思うと、彼女はローブを脱ぎ、胸元の大きく開いたシャツと短すぎるスカート姿に変わった。
「ローブは暑苦しくて嫌なのよ」
おまけに口調までも変わる。
「どう? 分かった? 私がタチアーナの夜の姿よ」
玲菜、レオ、ショーンは驚きすぎて、しばらく呆然としていた。