創作した小説が世界の神話になっていた頃
[第二部・第六十九話:視える力]
天気は快晴。時季的な問題か若干蒸し暑いような気温の中、前に女性二人、後ろに男性三人を乗せた自動車は荒れた地面を安全運転で進む。
運転しているのは玲菜。助手席はタチアーナ。後ろの席にレオ、ショーン、エド。
蒸し暑いのは明らかに後ろの三人であって、レオもまぁまぁガタイはいいが、エドは二メートル級の長身だし、ショーンはおじさんだしで、ゆったりするはずの座席が狭く暑苦しく感じる。
一方、快適な前の席のタチアーナは、申し訳なさそうに玲菜に切り出した。
「すみません、私たちまで同行することになって」
ちなみに昼間なので淑やかな方のタチアーナ。
玲菜は前を見ながら首を振る。
「いえいえ! 同行はこちらから頼んだので、むしろ謝りたいのはこっちです。十日くらい移動で長いですけど、よろしくお願いします」
「でも、馬車よりもずいぶんと速くて高度な乗り物でびっくりしました」
エドは二回目だが、タチアーナは初めて車に乗る。興奮したり恐がったりしない彼女に、逆にびっくりしそうだ。
結局、預言者の家で話し合いが終わらなかった一行は、戦の話もあったので急いで帰らなければならなく、ならば協力のためにもタチアーナとエドが同行することになった。
早めの昼食の後に出発して、エドの案内だと異常に速く森を抜けることができて、三時間ほどで車に到着。そのまま乗って移動を始めた現在に至る。
日も長くなったのであと二、三時間は走れる様子。但し、燃料の関係もあるから二時間くらいが限度か。運転手は玲菜が買って出て、ショーンが地図を広げようとしたけれど、タチアーナが「必要無い」と言った。
「目的地への安全な路くらいは分かります」とのこと。彼女はもうアヌーの腕輪を填《は》めていないが、前世のシドゥリの能力少し持っていて、『場所』が分かるらしく。
そういえば以前、鳳凰《ほうおう》城塞への近道を教えてもらったことを(あの時は夜だったので見た目はイナンナの方であったが)玲菜は思い出した。
突然、タチアーナは静かに語り始めた。
「『位置空間』の能力は、アヌーのものなんです」
「次元と空間の神・アヌーのことか?」
知識のあるショーンが返すと頷《うなず》く。
「ええ。アヌーはかつての『神』の一部であり、私たちの生みの親」
「え?」
「あ、“私”というのはタチアーナではなく、前世のシドゥリやイナンナやことですが」
今、彼女は完全にシドゥリの意識になって喋っていたようだ。果てしなく遠い昔のことを、つい最近のことの様に話す。
「つまり、亜人《ア=ヒト》を創った機械なのです」
……もしかしたらどこかでサラッと言われていたかもしれないが、改めて『アヒト』という人種(?)の出生を説明された三人は唖然《あぜん》とする。
ただ本当に呆然《ぼうぜん》としたのは、理解のできないレオだけであって、玲菜は得意の脳内変換に成功。「SF映画みたい!!」とすぐに興奮して、実感も無いままワクワクした。
そして当然知識のあったショーンは、答え合わせのように訊ねる。
「俺の読んだ文献では『兵器によって造られた』って書いてあったけど」
「はい。神は兵器でもありました」
タチアーナの答えで、自分の推測が合っていたと確信できた。
(やっぱそうか。元々は大戦のために造られた兵器が『神』と呼ばれる程の凄い機械だったってことか)
或《ある》いは、亜人《ア=ヒト》自体が戦争のための兵器人間……
(って、まさに玲菜が言うように映画みたいな話だけどよ)
伝承によると、その機械には、時間を操る事も可能な機能があったとか。
(結局はそれが、進化した新しい人間を創ることに成功するんだろうな)
人間には無い能力を持った亜人《ア=ヒト》の誕生へ繋がる。
そして……
――時空を移動する装置の開発の成功も。
(そんなんできたら、まさに“神”と呼ぶだろ)
アヌーは、賢者たちよりも先に『神』と成った。
ショーンが昔、預言者の家で初めてアヌーの結晶石を見た時に、物凄く高揚した記憶が甦る。伝説の神の名が付いた石だったから、なんて神々しいのかと思った。
できれば一度触ってみたいとも。
だから盗んだ……わけではないが。
タチアーナは、ショーンが考えたことと同じような内容を玲菜たちに説明した。
神と呼ばれたその機械は、元々は戦のために造られたが、やがて時間をも操作する機能ができる。しかも、自己進化型機であったが為、そのうちに空間を移動……果てに、時空も移動する場所を造った。
「――それが時空の渦です」
知っている名が出てきて「ああ!」と声を上げる玲菜。
「時空の渦!」
前にショーンが『大昔の高度文明の技術で造られた』的なことを言っていたのを思い出して、気分が昂《たかぶ》る。
(凄いな。ショーンの言った通り。ホントにお父さん、凄い人なんだな)
改めて自分の父に感心。戦の作戦よりも考古学知識の方が素直に褒められる。
『神の一部』と聞いたが、時空の渦にはひょっとしたらアヌーが大いに関わっているのか。となると、『アヌーの腕輪』や『アヌーの結晶石』が使われるのは容易に納得できた。
しかし、実際はやや複雑であり。
「但し、時空の渦や空間を移動する場は、中に入った人間が閉じ込められたり、別次元や別時代にたどり着いてしまったりと、安易に活用できる場所ではなく」
危険空間として閉鎖されていたのだという。
おまけに、行ける時代が限られている等の不備があって、『未完成装置』とされていた。
確かに『ブルームーン』の日に限られるので「ふ〜ん」と納得する玲菜たちであったが、腑に落ちないショーンは訊ねた。
「ずっと気になってたんだけど、時代が経った後の記述を調べると、『神』は破壊されたことになってる。だから『未完』に終わったってのは分かるけどさ、なぜ破壊されたんだ?」
そもそも自己進化型ならば、勝手に修復する機能が付いてもおかしくはない。
タチアーナは「そうですね」としばらく考え込んで、分かったように言った。
「姉が言うには、もちろん人の手で壊されたのだけれど、自己破壊もあったそうです」
姉というのは彼女の意識の中のイナンナであって、本人いわく、一緒に居る感覚があり会話もできるとのこと。
自己破壊というと、機械が意思を持っているようにも感じるが、どうだったのだろうか?
(ありえるか?)
まぁ、確認できないので考えても仕方ないとショーンは思った。
多分、危険空間であったアヌーの装置を操れたのが唯一シドゥリだったと予想できる。アヌーは人間ではなく機械だったので、自分の造り出したヒトに『力』を託した。
それか、人的関与を考えると、意図的に作られたか。
ただ、アヌーの腕輪を填めてアヌーの力の欠片を得た巫女は、伝説の女性の名――シドゥリと呼ばれた。
タチアーナはシドゥリの能力の『アヌーの力』を使ってなのか、地図も見ずに道を教える。
(でも、アヌーの腕輪を填めていた頃の『視える』力はまた別だろうな。アヌーの力が加わったおかげで予知できたんだろうけど、呪いも原因は石の腕輪の方か?)
ショーンは別の話も聴こうと思ったが、ふと外を見るともう日が暮れてきている。
隣に座るレオは話が理解不能だったからか寝ていることだし。前席の二人に「そろそろ宿のある集落へ」と促《うなが》した。
やがて……日も暮れてタチアーナの姿がイナンナに変わった頃。何度見ても彼女の変身にはびっくりしてしまうのだが、集落を見つけて近くに車を隠し留めて、皆で暗い道を歩く。
一軒だけあった小さな民宿に(皇帝が寝るような所ではないが)泊まらせてもらった。
次の日。
また話を聞こうと思っていたショーンは、前の晩から「何を訊くか」頭の中でまとめていた。
イナンナの姿のタチアーナは面倒がって過去の話等をしてくれずに酒ばかり飲んでいたが、朝の彼女は違うはず。
考古研究者として今まで推測していたことを、大昔の記憶を持つ者に実際に聴けるとは思わなかった。
車移動という退屈な時間。本拠地へ戻ったら忙しくなってしまうし、こんな機会は二度と無いだろう。本拠地へ着くまで約十日。幸い時間はたっぷりある。
まずはなんの仮説から検証しようか吟味《ぎんみ》しながら車に乗り込む。
発車してしばらくした後、話しかけようとするとなんと……
まさかの熟睡する彼女。
助手席のレオも眠っていて、運転席の玲菜がかなり怒っていた。
「もう! レオってば、タチアーナさんと遅くまで飲んでるんだから!!」
娘の言葉で謎がすべて解けた。
……そういうことか。
察するに娘も一緒に起きていた様子。確かに恋人が美女と酒を飲むのは心配するだろう。自分は飲まないで、三人で過ごしていたという。
ムスッとしながら運転する娘に父は気を遣った。
「おと……俺が運転しようか?」
玲菜はお言葉に甘えて運転を代わってもらい、その後眠かったらしく寝てしまった。
「はぁ」とため息をつくショーンに、一人静かに座っていたエドが話しかけた。
「私で良ければ、話し相手になりましょうか?」
「……うん。ありがとう」
微妙な申し出に、ショーンは心の中でため息をつく。
彼も多分、いろいろ知っているような気もするし、もしかすると……普通の人間ではないかもしれない。だがしかし、気まずい。
「ああ、いいよ。エドも眠っていて。なんかあったら起こすからさ」
「わかりました」
その後、休憩時間以外、皆は眠ってばかりいて、ショーンはタチアーナに話を聞くタイミングを失った。そして、昼間寝たせいか夜には元気に酒を飲む。この悪循環な生活が車移動中ずっと続く。
昼夜逆転生活は一週間にも亘《わた》った。
*
出発してから八日目の夜、ついにショーンはレオ、玲菜、タチアーナの三人を呼び出して説教を食らわした。
「ちょっとそこに座りなさい」
男たちの部屋にて。ショーンのベッドに並んで腰掛ける三人。
「靴を脱いで正座!」
床はコンクリートなので渋々ベッドの上で言われた通りにする。
「ちょっとなんなのよ。足が痺れるし、太くなるからこんな座り方嫌よ」
文句を言うタチアーナを睨みつけてショーンは皆にぴしゃりと言い放った。
「一体いつまでこんな生活を続けるんだ!」
「え?」
「え、じゃなくて! 毎晩朝まで酒飲んで、昼間寝るなんて生活リズムが崩れるって言ってんだよ!」
「生活りずむ?」
首を傾《かし》げるレオには一喝《いっかつ》する。
「飲むなとは言わないけどな、飲み過ぎは体に良くないし、生活習慣病になるぞ!」
また知らない言葉が出てきた。
言葉は知っていたが、二人とは違う玲菜は反論した。
「私、お酒飲んでない」
「お酒だけの問題じゃなくて、夜はちゃんと寝なさいってこと!」
正論すぎて言い返せない。
ショーンは、女性二人が気にするようなことも言った。
「夜更かしは肌にも悪いし」
ハッと同時に頬を触る女性二人。但し、実感の無い玲菜にはさほど効いていない。
「タチアーナ!」
指名されてつい「はい!」と返事をする彼女に、ショーンはきっぱりと注意した。
「いくら見た目が昔のままでも、本体の実年齢は五十だろうが。もう少し危機感を持て」
「いやぁああああ!!」
タチアーナが発狂すると、今度はレオに眼を向けた。
「お前にお義父さんと呼ばれる筋合いは無いな」
「え!? どういう意味だよ?」
彼が震え声になった後は玲菜だ。
「……うん」
いや、愛娘には冷酷になれなかった。
ただ逆に何も言わないのが怖くて娘も泣きそうになった。
「何? 言ってよ!」
三人が不安になった頃合いでショーンは優しい表情に変えた。
「俺だって叱りたくはねぇよ。お前らの体が心配なだけだ」
「ショーン!!」
「オヤジ!」
「ショーンさん!」
かくして、三人は深く反省して親父は彼らの所業を許した。ショーンの誠意は伝わって、もう二度とだらしない生活はしないと誓い合う。
少し離れた場所では、自分のベッドに座ったエドが困惑していた。
あまり森を離れないので世間では知らないことが多い。一体四人は何をしているのだろうと遠い目で見つめていた。
ともあれ、三人が改心した翌朝。
ここまで順調に来たので明後日……或いは明日の夜には着くというのに、ショーンは個人的に立ち寄りたい所があるからと、別移動をすることになった。
実は近辺に鳳凰城塞があって、帰りは寄らない予定であったがショーンだけ行くのかと思ったけれど、「違う」と否定する。
「町で馬を借りるから」と車を降りて、皆には先に帰るよう促した。
一人で大丈夫かと玲菜は心配したが、後から合流する黒竜が付き添うことになったので一先ずは安心か。
一行はショーンと別れて緑龍城へ向かった。
―――――
そして……
次の日の夜。出発してから十日目。大体予定通りに本拠地へ帰ってきた。
ただ、夕方ならまだしも、もう暗くなっていたので一旦自宅へ帰ることにして、湖族の村の食堂で食事をしてから家に向かう。
着いたのは夜遅くになっていた。
「それにしても」
荷物を置き、まるで自分の家かのように遠慮なしにソファに座って、タチアーナは部屋を見回す。
「皇帝陛下ともあろう者が、こんな民家に暮らしているなんてびっくりよね〜」
一方エドも、他人の家なのに茶を淹《い》れようと歩き回る。
慌てて玲菜が止めてソファに座らせた。
「わ、私がやるんで、大丈夫です」
見ていたレオは、やはり彼は従者向きだと笑った。
「お前、フルドみたいだな」
そういえば、フルドだったら到着を予想して村の入り口で待っていただろうなと懐かしく思う。
「でもまぁ、さっきの感じ、村の人たちには慕われてそうだったから、お城を取り戻しても良い皇帝になれそうじゃない」
先ほど行った食堂でのこと。居合わせた客にレオだとバレたが騒がれずに温和な時を過ごせた。
意外と観察しているタチアーナにレオは訊ねた。
「どう視える? 俺は国民にとって良い皇帝になっているか? それとも、死んでいるか」
「悪いけど、視えない」
もしかしたら彼の冗談だったかもしれないが、タチアーナは目を閉じた。
「アヌーの腕輪を外したら、未来は視えなくなった。シドゥリちゃんの能力を使っても無理よ」
そもそも『視える』能力自体、アヌーのものではないと彼女は言う。
「で、でも、車での帰り道が分かったやつは?」
ちょうど茶を淹れて持ってきた玲菜が訊ねた。他にも以前、安全な道を教えてくれたことも。
「道案内くらいならできる。厳密にいうと空間を把握できるから、ある程度の危険察知もね」
それはアヌーの力らしい。……そういえば、移動旅行の最初に言っていたか。
しかし……
「あ!」
レオと玲菜は同時に思い出す。
「じゃあ、あれは?」
彼女は占い師だと言っていた。
「レオのことを予言していたじゃないですか」
玲菜の言葉に、首を振るタチアーナ。
「ごめんね、占い師は嘘よ。あれは予言ではないの。予想しただけ」
つまり彼女は、シリウスの剣の危険を知っていたので、予想して行動したのだという。
「パンドーリアの剣の気配は分かるの。それはイナンナの能力」
「パン……?」
パンドーリアの剣とは確か、シリウスの剣の別名。
思い出して「そうか」と頷くレオ。ショーンが車移動中に聞きたくても聴けなかったことを訊いた。
「じゃあ、『視える』能力はなんだ? 巫女の力?」
タチアーナの一族は代々巫女だったので、そこに特殊能力でもあるのかと思ったが違った。
「いいえ。『魔眼石《まがんせき》』の力よ」
「まがんせき?」
「そうよ。魔物の『魔』と、眼《め》、石《いし》」
まさに“それっぽい”名が出てきて、耳を疑った二人が思わず笑いそうになっていると、彼女は深刻そうな顔で続ける。
「古代ウォール人の中にね、そういう眼を持った一族がいたの。読みたくもない他人の心を読めてしまって、時に心を操れるってやつ。別名『蛇の一族』とも呼ばれた」
彼らは気味悪がられて迫害されるか、権力者に利用されたのだという。他人を信用できなく、ずっと孤独だった、と。
一つ疑問を持つレオ。
「古代ウォール人?」
どこかで聞いたと思い出す玲菜。
「あ! 死者の塔の遺跡! 地下にあったやつで……月の力? があった所!」
「は?」
そういえば、二年前に地下遺跡に行ったような。
「ショーンが、なんとか人《じん》の遺跡って言ってたよ! 多分その、ウォール人だったんじゃないかな?」
「……よく憶えてんな? お前」
レオと違って玲菜にとってはそこまで昔の話ではなく、けれど記憶力が良いと感心できる。
二人であの時の思い出を語り合いそうになっていたところで、珍しくもエドが口を開いた。
「ウォール人ですか……」
妙に懐かしそうなのがこわい。
ただ、恐らく古代ウォール人は万年単位で昔の古代人であって、“懐かしい”というのはありえない。
不審に感じたレオが訊ねる前に彼が続けた。
「ウォール人は、亜人《ア=ヒト》……ですよね」
「そうよ」
サラッと答えたタチアーナは茶を飲みながら話す。
「話は戻るけど、魔眼はその力ゆえにやっぱ狙われるのよ。それで、とある国の皇帝が……」
未知の力と権力者が必ず繋がるのはお約束か。
「国中の呪術師を集めて魔眼を片目に移植するわけ」
しかもどこかに闇がある。
「でも、ウォール人の力は普通の人間には合わなくて、死ぬ」
もしくは――
「運よく生き残っても、『呪い』を受ける」
魔眼石を填めた者がどうなるのか……ここで一致した。
「力を使うと寿命が縮むってやつ。要するに長くは生きられないのよね」
アヌーの腕輪の呪いは石の腕輪の部分にあった。『視える』能力についても。
そこにアヌーの力が加わって未来が視えた。
玲菜はぼんやりと、そういえばシドゥリ……いや、アルテミスも、魔眼石の話をチラッとしたような……と、思い出していた。今まですっかり忘れていたが、話を聞いたら、なんとなく聞いた記憶があったので。
(気のせいかもしれないけど)
はっきりとは憶えていないし、もしかすると勘違いかもしれないが。
(古代ウォール人かぁ)
自分のいた時代では聞いたこともない古代人。
(っていうか、ここの時代にとっては私のいた時代が古代?)
自分は古代人か? いや、ハーフ的な何かか?
頭がこんがらがりそうになった玲菜は首を振ってかき消す。難しいことは考えない方が良いと、気持ちを切り替えた。
(でも、今までの話を聞く感じ、呪いの話とか結構共通してるっていうか……)
シリウスの剣が関係しているのは間違いなく、だからショーンもタチアーナも話をしている。もしかしたら、大昔のことをもっとよく調べれば呪いを解く手がかりが――
「あ!」
前に聞いて、気になった場所を玲菜は口に出す。
「砂漠のゴミ置き場?」
旧世界の物がたくさん捨ててあるなんて、何かが見つかるかもしれない。
そう思ったのに、同じ時に何かを思いついたタチアーナが立ち上がった。
「あ!! 古来術《こらいじゅつ》!」
いろいろと頭に浮かぶらしく、単語を連続で呟く。
「聖なる水源? エア……? 末裔?」
「な、なんだよ?」
レオが首を捻ると弾んだ声で顔を近付ける。
「魔眼石の話で思い出したのよ! ショーンさんの持っている『蒼人魚の血』が青族の血の代わりになるかもしれないってこと!」
「え!?」
興奮して詰め寄ったのは玲菜だ。
「本当ですか!? 本当に!?」
「え、ええ」
思わず仰け反ったタチアーナは着席する。
「但し、探すのは大変だと思うわよ。一応アテはあるけど、範囲が広いし」
「何か探せばいいんですか? 私、行きます! 大変でもいいの!」
懸命な玲菜を少し落ち着かせて、彼女は言った。
「凄く遠いかもしれないけど、いいのね?」
「はい!」
「ちょっ、ちょっと待てよ!」
勝手に話が進んでいきそうで、慌てたのはレオの方だ。
「話が全く見えねーよ。玲菜も勝手に決めるな!」
タチアーナはじっとレオを見て、ふぅと息をついた。
「貴方は一緒に行くのは無理ねぇ。皇帝だし、奪還軍の総隊長なんでしょ?」
「え? 行ける! 俺も行くぞ!」
そうは言っても、あまりに長く不在になるのはやはり無理であって、ちょうどクラウ公国参戦でアスールス解放・防衛戦の話が来たばかり。預言者の家から急いで帰ってきたのも戦が理由だ。
玲菜にだって、レオが動けないことくらい分かる。
「レオ……。私行ってくるから、レオは待ってて」
「だから、何言ってんだよ! 大体、どこに行くんだ」
まだ肝心な場所を訊いてなかった。
レオの質問に、玲菜も分からなかったがタチアーナの答えでびっくりした。
「ええと……ナトラ・テミスかしらね」
名前を聞いただけで困難が分かって、しばらく二人は呆然としていた。