創作した小説が世界の神話になっていた頃


 

[第二部・第七十六話:妹]

 

 玲菜たちが鳳凰《ほうおう》城塞へ着いたのは、緑龍城に帰った日から三日後。

 今度は、アヤメ(とミズキ)は来ずに玲菜・タチアーナ・エド・アフの四人で、帰った翌朝すぐに出た。

 レオやショーンが鳳凰城塞に向かったと情報を得ていた玲菜は、約二週間ぶりにようやく彼に会えるとソワソワしていたのだが……

 到着するなり、騎兵隊が順番に門から出て行く様を見て、話を聞いて愕然《がくぜん》とした。

 

 

「え!? クリスティナさんたちが出陣!?

 それだけではなく、まさかの。

 

「レオたちも一緒に!?

 

 伝えてきたのは黒竜の部下であり、ちょうどショーンから玲菜宛てへの手紙を預かっていて、これから緑龍城へ向かうところだったという。

 偶然に玲菜を見つけて、手紙を渡してきた。その際に今の状況を簡単に説明してくれた。

 アスールス防衛の陸上配置にクリスティナ率いる朱雀《すざく》聖騎士隊が選ばれて出軍する、と。戦場へ赴《おもむ》く訳ではないが、用事があって軍総隊長及び参謀長も同行する、と。

 尚、二人と護衛たちは行軍には加わらず、昨日の内に発ったとの事。

 

 クリスティナのことにも驚きだが、玲菜はショックで呆然《ぼうぜん》とした。

 心配しつつも、黒竜の部下は緑龍城へ言伝があったので去る。

 

 玲菜は父からの手紙の封を切って読んでみた。

『レオと一緒にアスールス方面へ行ってくる。戦には参加しないので心配しなくていいよ。緑龍城でアヤメさんたちと待っていてくれ。精霊の石のことは帰ってから聞く』

 最後に『体に気を付けて、くれぐれも勝手な行動はしないように』と、娘の性分を案じる文が付け加えられた便箋には、残念ながら恋人からのメッセージは無い。

 読みながら、不満でワナワナした玲菜はつい大声でつっこんでしまった。

「勝手な行動はどっちなの!?

 アスールス方面へ行ったら、往復だけでも二十日間はかかる。向こうでの滞在時間は分からないが、少なくとも今後一ヶ月は会えないことを覚悟した方がいい。

「ひどい……」

 約二週間会えなかっただけでもさみしいのに。というのは自分の気持ちで、一刻も早くレオの呪いを解きたいのに。

 玲菜は、ちゃっかり連れてきたウヅキを抱っこして哀しさを紛らわした。

 

(レオと一ヶ月も会わないことってあったかな?)

 この世界へ来て、いろいろあり……彼と離れていた時期もあったけれど、遠くから離れて見る等を「会った」と解釈すれば、自分側だと一ヶ月丸々会わない時は無かった気がする。

 しかし彼側からすれば、離れていた期間は一ヶ月半会っていないし、最も長くて二年間会っていない。

(あ、そっか。レオは私と離れることに慣れているんだ?)

 案外彼は平気なのかもしれない。

 そもそも戦だなんだと、ちょくちょく離れる時はある。

(でも駄目だ。私は慣れなくてその度に凄くさみしい)

 もしかすると、自分と彼の想いの丈は違うのかもしれない……なんて、思いたくはないが。玲菜はしばらくレオのことを考えて落ち込んでいた。

 

 

 

 ―――――

 

 その、レオはというと――。

 

 玲菜と離れる事に慣れる……なんて、一切無く。

 揺れる馬車の中でとにかくうなだれる。「あ〜〜」だの「う〜〜」だの、ずっと発せられる嘆き声に正直我慢の限界を超えたショーンはピシャリと注意した。

「うるさい!! そんなに後悔するならお前も手紙残せば良かったじゃねーか!」

 せっかく娘への手紙を促《うなが》してあげたのに書かなかったのは彼だ。

「だって……書くことねーし」

 無いというか、実際はちゃんと仲直りしていなかった状態が気まずくて言葉が見つからなかったというか。

「一言『ごめん』って書けば良かったんじゃねーのか?」

 ショーンの提案にはレオは首を振る。

「いや、俺悪くねーし。ただの誤解だから。誤解だってことは玲菜も分かったみたいだし」

 ならば問題無いはずでは? と、言いたいところだが、本人らには微妙な感じだ。実際に面と向かって確認し合っていない。

 レオに残されたのは夢うつつでのキスの記憶。されたと思われる頬を触ってボーッとしながら呟いた。

「……キスしてぇ」

 彼女の父親に睨まれたのは言うまでもない。

 

 馬車は大砂漠を避けて荒地を進み、東へと向かっていった。

 

 

 *

 

 

 やがて、アスールスまで約半分の五日目の夜に、順調に進んだレオたちは古い城壁都市に到着した。

 城壁といっても、元々修繕中だったのに追い打ちをかけて小競り合いがあった為、崩れかけた壁であり、今も修復している石工が目立つ。そして近くには大きな河が流れている。

 

 ――サン・ラーデ市。

 

 要するにカルロスの家の昔からの土地であって、つい先日まで奪還軍・アスールス“解放”連合水軍が世話になったと聞く。ちなみに目的はアスールス奪還だが、解放の方が聞こえに良い為に名前を変えさせた。

 サン・ラーデ市はカルロスが領主だからなのはもちろんのこと、町の危機に奪還軍が助けたので、奪還軍に対して好意的だ。

 兵休息のための軍の駐留を快く受け入れてくれて、市や近隣の町村から集まっていた志願兵団まであったらしい。

 更に、次に到着する朱雀聖騎士隊まで迎え入れてくれるのだという。

 

 ショーンたちは市長に挨拶をして古い兵舎へ向かう。兵舎ではやむなく離脱した負傷者や病の者も残っていて、快復を待つか帰還するか……

 あとは、伝令係がもうすぐ到着するクリスティナ隊を待っていた。

 中にはショーン宛ての言伝もタヤマからあったので、先に聞かせてもらうとする。

 それは、アスールスを管理する(偽)皇帝下軍の司令への『無血解放説得術』の内容。確認したショーンは、「タヤマ君ならできる」と大いに期待を寄せた。

 

 

 

 そしてついに……

 夜遅くであったが、鳳凰・朱雀聖騎士隊の先発隊が到着。

 実は先発隊というのはクリスティナと護衛の班であり、過酷な砂漠を回避して先にやってきた少数部隊であった。

 ここに夫のフェリクスは居ず、彼は副隊長として本隊を率いている。

 申し訳ないが、クリスティナは完全にお飾り隊長であって、本人も薄々勘付いている様子。それでも、張り切って隊長の任に就いてくれていた。

 

 

 

 

 翌日。

 そのクリスティナが軍総隊長及び皇帝の異母兄に挨拶に来た。

 久しぶりの再会なので兄妹水入らず……とはいかなく、護衛と従者がそれぞれ控える。

 付き添いとしてクリスティナにはヘレンが、レオにはショーンが近くにいた。

 

 短期間だが滞在させてもらっているカルロスの実家の屋敷にて。

 提供された古くても豪華な広間のソファに座るレオの前にクリスティナがやってくる。彼女はいつもの皇女の格好ではなく立派な軍服に身を包み、軍の隊長を意識して挨拶をしていたが、皇式とも違う慣れない軍式の言葉をうっかり噛んでしまい、レオが笑ったことでいつもの彼女に戻った。

 顔を赤くして言い訳をして、着席した後は周りを見て首を傾《かし》げた。

「ところでお兄様、レイナ様は居らっしゃらないのですか?」

「え?」

 戦場の近くといえども、戦に赴くわけではないので、恋人を同伴していると思ったらしい。居ないのが分かると残念そうな顔をした異母妹にレオは訊ねる。

「会いたかったか?」

「ええ」

「お前は本当に玲菜が好きだな」

「もちろんですわ」

 クリスティナは笑顔で喋る。

「レイナ様はお喋りがうまくて、いろんなことを知っていて本当に楽しいです。お兄様との恋の話も……」

 ここで異母兄上が顔を赤くしたので口をつぐむ。

 そういえば、『陛下』と呼ぶのも忘れていた。

 本当は敬称で呼ぶのが相応しいのかもしれないけれど、クリスティナは敢《あ》えて「お異母兄《にい》様」と呼んだ。

「私《わたくし》は……」

 親しみを込めて。

「アルバートお兄様が来るまで、ずっと一人でしたわ」

 なぜこんな話をしたのか。

「広い部屋や屋敷、たくさんの人形を与えてもらいましたが、幼心にもずっとさみしかったと思います」

 多分、自分の気持ちを確かめるため。

「他の“おにいさま”や“おねえさま”に話しかけたこともありましたが、皆よそよそしいし、『おともだち』もいませんでした」

 母親は病気で臥《ふ》せていて、妹は生まれたばかり。父親とは話したこともない。おまけに『こうひ』と呼ばれる女性の中には、意地悪な眼で自分を見る人も。

「そこに、ある日突然『あたらしい“おにいさま”』が現れましたの」

 黒い髪で青い瞳の少年は、宮廷の中を珍しそうに歩き回っていた。

「まずびっくりしたのは、その“おにいさま”が御一人で歩き回っていたこと」

 仮にも皇子の周りに誰も居ないのはありえなく。

「後から、走ってきた従者たちに捕まっていましたよね」

「あー……」

 レオは、そういえばそんなこともあったかと恥ずかしそうに思い出す。

 宮廷に入ったばかりの頃、まだ立場等がよく分かっていなく、従者の目を盗んでは城内を探検していた。

 母親と滅多に会えなくなるとも知らずに、純粋に豪華絢爛《ごうかけんらん》さに見惚れた。

 

「アルバートお兄様は私と初対面でいきなり指をさして『お姫様がいる!』って叫んだんですのよ」

 クスクスと笑うクリスティナに、聞いていたショーンまで笑いを堪《こら》える。

 

「でも私は、嬉しかったのです」

 今までずっと怖くて不安に思っていたこと。

「新しいおにいさまには『私が見えている』と確認できて」

 他の兄姉からは、もしかするとよく見えていないのかもと思っていたから。

 

「あの日から、アルバートお兄様は私の『英雄』でした」

 

 彼女は懐かしそうに話す。

「よく部屋を抜け出して、私と遊んでくださいましたし、それは私にとって大冒険」

 下町の子の遊びは、皇女の知らないことばかり。木に登るのも、池に入るのも、服を凄く汚すことも。

「身体的に私には無理で、見ていることが多かったけれど、お兄様とフルドさんの仲間に入れてもらえるだけで楽しかったのです」

 レオとクリスティナは五歳離れているので、必然的にそうなる。

「フルドさんはお兄様の第一子分で、私は第二子分」

 密かに遊んでいると使用人に見つかり引き離される、を繰り返していた。

 

『子分』という言葉で恥ずかしくなったレオは顔を押さえる。

「よく憶えているな」

 第一や第二があったことが子供っぽい。

 

「お兄様は、本当は幼い妹と遊ぶなんて楽しくないはずなのに、私が泣くからいつも迎えにきてくださって……今思うと、子守ですわね」

 

「いや、俺は……」

 レオが言う前に、クリスティナは俯《うつむ》く。

「だから私は、……私にとって、“本当の兄”は、アルバートお異母兄《にい》様だと思っています」

 

「……え?」

 

 なぜ、彼女が突然改めてこんなことを言うのか……

 理由の分かったヘレンは目を伏せた。

 

「俺は……。いや、俺も、お前のことは……たとえば“腹違い”だとか、意識したことはないぞ」

 若干照れながらレオは告げた。

 異母妹は他に二人いたが、彼女たちとはあまり面識が無かったので他人のようであったし。二人の兄上は異母弟としてむしろ警戒があった。

 フレデリックはまだしも、ヴィクターのことは大嫌いだったし。

 

 

「お前は大事な妹だよ」

 

 

 次の瞬間、クリスティナはポロポロと涙をこぼしてしまい、ヘレンが支えた。

 異母妹は泣いてしまったことを謝ったのか小さく「ごめんなさい」と呟く。

 

 嬉し泣きにしては少し悲しげで、レオは戸惑って慌ててしまった。

「ど、どうしたんだ? クリスティナ」

 訊ねるも、本人は答えられずにヘレンが代わりに謝る。

 仕方なく会話は中断して、落ち着くまでクリスティナは別室に通された。だが結局気分が優れないとの事で、彼女たちは屋敷から出る。

 

 その後、夫の本隊と合流した後に夫共々また挨拶に来たが、私事は話さなかった。

 

 

 ―――――

 

 やがて、また別行動で目的地付近へ移動。サン・ラーデ市から北に向かう。

 

 

 

 四日が経過して、アスールスよりも少し西方にある国境地点へ到着。

 レオたちは視察した後、フェリクスに任せて見守ることにする。

 相手側が国境を越えるとした場合の地点にはそれぞれ見張り隊を配置。偵察隊も分散させる。

 

 

 ショーンは様子を見ながら馬で隣に並ぶレオに言った。

「この辺はウォルホーク候の領土にも近いな。増援でも頼んでみるか?」

 ウォルホーク侯爵というのは、フルドの父親。

 国が混乱中の今は、誰が敵で誰が味方かは分からないが、ウォルホーク候ならば味方にできる可能性は高い。但し、病気で倒れたらしいので、救援を頼むのは酷ともいえる。

「冗談だろ」

 本当に冗談だろうが、レオはショーンを睨みつけた。

「俺もそこまで鬼じゃねーよ」

 ちなみに、フルドからその後の連絡は無い。

 多分彼ならばしっかりやっているだろう。

 

 それよりも気がかりなのはクリスティナの方だ。

 

 先日の件以来、たまに姿を見かけてもどことなく顔色が悪いような雰囲気がある。

 まさか軽い気持ちで隊長をやっていて、いざ戦となったら急に怖くなってしまった……とは、思いたくないが。

 あの異母妹に限ってと、レオは彼女を信用することにする。

 多分、暑さゆえに体調でも崩したのだろう。軍医に診てもらうことを侍女に勧めておこうと心に決めた。

 ……なんとなく、胸騒ぎを感じながら。

 

 

 

 *

 

 いっぽう、時同じ頃。

 

 玲菜たちは……

 精霊石エア・アクアの片割れ『エア』を求めて西への車旅を続けていた。

 

 メンバーは、玲菜・タチアーナ・エド・アフ、それにウヅキ。

 西というか、まず南へ行き、そこからナトラ・テミスを避けて西へ行き、国境を越えて国交のある小国へ入り、更に国境を越えて別の国へ入った。

 もっとずっと西へ行くと、帝国が西方諸国と呼んでいる地域がある。その西方諸国の東側というややこしい場所に、領土が小さ目ながらも大国のリース国というのがあり、聖都ラズには世界的に有名な大聖堂が在った。

 

 大聖堂に隣接した宮殿に住まうのは神話を軸にした宗教の最高位である『聖皇』

 地位と権力は大国の君主に勝るとも言われる。

 神話『伝説の剣と聖戦』を信仰する人々は多く、また、大国が多いために、世界で最も影響力のある人物と言っても過言ではない。

 

 実は、鳳凰城塞のウィン司教を訪ねた玲菜たちは、エアがその大聖堂に保管されていると知り、聖都ラズに向かって旅立った。

 その際、砂上の砦の近くにショーンたちが乗ってきた自動車が留めてあったので、利用しない手はない。

 仕方なくも玲菜が運転手をかって出て、何度も休憩しながら進んだ。タチアーナの能力で危険を回避しつつゆっくり走り、謎の乗り物の恐怖におののいたアフのアフロ毛が部分的に抜けた以外、大きな損失は無かった。

 

 

 それにしても、移動最速の車でありながら、出発して早や十一日。西方諸国地域にすらまだ入らない現状に気がおかしくなりそうになる。

 赤い砂漠は帝国だけのものではなかったらしく、似たような景色はずっと続く。たまに緑があると集落もあるし、草原が続いたり森があったりもするが……基本的に荒地が多い。ただ、帝国にはほとんど無かった大きな緑の山脈が遠くに見えた時は妙に感動してしまった。その辺りは緑や川も全体的に多かった気がする。しかも大雨も降った。

 

 幸い、帝国を出て別の国へ入っても、ちゃんと国交がされているので問題無く、また、同じ宗教下では言葉も同じで文化に差異もそれほど無かったので困るほどではなかった。

 今まで帝国しか知らなかった玲菜は、実際に外国へ行っても玲菜の神話が信じられていることや、信仰対象物が違うこと、解釈が少し違うことに興味を持つ。

 あとは、町の建物や人々の服装、若干の人種の違い、初めて見る郷土料理……等も新鮮だったし、発掘物の優遇差も気になる。

 噂で地下の巨大遺跡の発掘が進められている話を聞くと、自分が知る歴史的建造物ではないかと胸が躍った。

 

 

 けれど……

 レオの背中の呪印の心配はずっと続く。まさか広がっていないだろうか不安も常にあった。

 彼も父も、自分が西方諸国へ向かって遠くの国へいるなんて夢にも思っていないだろう。

 聖皇所縁の大聖堂に保管されている精霊の石をどうやって手に入れようか考えてもいないのに移動している。

 ただ、彼を助けたい一心で。

 

 

 玲菜は夜になると月を眺めて、皆の無事と早く聖都へ着けるよう祈った。

 今は恐らくかなり遠くにいるレオを想いながらウヅキと一緒に眠りに就いていた。

 

 

 *

 

 

 ――その、アスールス防衛陸上部隊・朱雀聖騎士隊に『情報』が入ったのは翌々日。

 

 アスールス解放はまだしていないのに、帝国北方国境付近でクラウ公国領土側に軍隊が集まっているとのこと。

 恐らくはこれから海より攻める際に、帝国軍を誘《おび》き寄せるための囮《おとり》隊に違いなく。予想通りだったのでこちらも陸防衛隊が赴き食い止める。アスールス管理軍を割《さ》かせようとする向こうの手には乗らない作戦が実行されようとしていた。

 

 ただ、なんというか……

 タイミングがちょうど良すぎるという不審点は気を付けなければならない。

 本来、もしも密偵に情報がバレていた場合、こちらの軍隊が付近に到着する前に侵攻していてもよいはず。

(情報は伝わってないか。……軍師の仕業だな)

 恐らくはシガの計算と、想定したショーンはクリスティナとフェリクスに注意を促す。何かの罠かもしれないので警戒を怠《おこた》らないように、と。

 

 朱雀聖騎士隊は元親衛隊の精鋭部隊なので大丈夫だと思うが、万が一にここを突破されてしまうと、アスールスに危険が迫る。陸と海で挟み撃ちに遭って、アスールス港町はクラウ公国に占領されてしまうだろう。

 その場合、連合水軍には甚大《じんだい》な被害が予想されるし、サイ城を攻める時にも影響が出る。

 多分、最悪の結果に違いない。

 

 不安からか、震えるクリスティナに、夫のフェリクスは「心配しなくていい」と妻を勇気づけた。

 近くに控える侍女のヘレンも、心配そうに見守る。

 

 

 いよいよ、国境防衛戦は間近に迫っていた。

 

 

 一方、前線には立たないもの、戦況を見守るために同行するレオは、右足に妙な違和感を覚えていた。なんとなく憶えがある気もしたが、気付かないフリをする。

 願わくは、本当に気のせいであってほしい――と、柄にもなく望みつつ。


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