創作した小説が世界の神話になっていた頃


 

[第二部・第七十八話:アスールス解放]

 

 レオは驚きすぎて、ショーンと……目の前の男を呆然《ぼうぜん》と見てしまった。

 

 黒髪の騎士は「フッ」と笑って、結んだ髪を解く。

「どうした? 異母兄の顔を見忘れたか?」

 

 言われて反射的に「兄上」と頭を下げそうになったレオは口を押さえる。危うく以前のように下手《したて》に出るところだった。もうそんな演技は必要無いのに。

 ……いや、今の立場は自分の方が上なのに。

 

 というか、異母兄の方が態度を改めるべきでは?

 

 むしろ本当にあの異母兄か?

 

 前皇帝の長男だったフレデリックは、戦で『死んだこと』になり、砂漠の集落で暮らしているはず。

 確か、利き腕を失くした上に、未亡人に恋をしてしまったから。

 自分に皇帝になれと頼んできた。

 

 目の前の黒髪の男は義手ではあるし、偉そうな態度が代わりないけれど――「助けにくる」ことが信じられなくて、そっくりな別人に感じる。

 

 そう思っていると、向こうが気付いて苦笑いしてきた。

「ああ、すまん。今は皇帝だな、お前……いや、陛下」

 

(ホントにフレデリックか!?

 態度を改められたのが逆に不信を増すレオ。

 本物であれば、見下す眼のはず。

 やけに温厚そうな物腰が信じられない。

 あの常に警戒と猜疑心《さいぎしん》を持っていた長男がまさかの改心か?

 

 レオが動揺していると、察したショーンが耳打ちした。

「この二年で、フレデリック殿はずいぶん変わられたぞ」

 皇子だった身分を隠して、小さな集落で暮らした。戦や政治も関係無く、大きな争いも無い、のどかな暮らし。豪華や派手ではない慎ましい生活。日照りが続くと水や食料を節約しなければならない。我慢することが多い。

 けれど……人々には笑顔があった。

 生まれて初めて好きになった女性を通じて、相手を思いやる心を知った。他人を守りたいという気持ちも。

(そうか……)

 恐らく『改心』という程では無いが、レオは納得する。

(フレデリックも少しはマシになったってことか)

 きっかけはあの未亡人か? そう思いきや、ショーンは信じられないことを続ける。

「多分、原因はお前だよ。もちろん、大部分の影響はキクさんや村人だろうけど」

 コソコソ話していたのに、危うく大きな声で訊き返しそうになった。

「俺?」

「ああ。お前がフレデリック殿の頼みを聞いたからさ」

 彼の望み通り、死んだ事と貫き、帝位を継承した。

 陰謀の民族の次男から守ったともいえる。――フレデリックは、自分の片腕や部下を失った砲弾がどこから飛んできたか薄々勘付いていた。『味方軍』といっても、ヴィクターの家臣だったはず。

 

 ショーンは、今度は耳打ちではなく、普通に説明した。

「フレデリック殿。実は、貴殿のことは軍総隊長に伝えていなかったのですよ」

「だろうな。アルバートの驚きようを見たら分かる」

 フレデリックは頷《うなず》く。

「それに、ショーン殿が私の許《もと》に説得しに来た時は、はっきりと承諾していなかったから当然だろう」

 つまり、ショーンがフレデリックに復帰を頼みに行った時、彼はまだちゃんと受諾していなかった。

 

 今回の戦の援軍として来るかどうかは、完全に予定外であって、本当に奇跡的だともいえる。

 ただ……ショーンの密かな賭けだったことは置いといて。

 

 賭けというか、ある意味確信でもあったが。

 

 フレデリックが復帰をして援軍に来たのは、レオに借りを返すためだけではない。事実上、皇家が乗っ取られた事に我慢がならなかったし、その陰謀のために大勢の部下が死に、自身も腕を失くした恨みもあった。

 まして、悪政は民衆を苦しめる。

 自分が世話になっている集落の人間も他人事ではなく、被害に遭う。

 今までどうでも良いと思っていたことが、妙に赦《ゆる》せなくなってきた。

 

 キクは何度も「戦は嫌だ」と内戦化していく国に心を痛めていた。

 愛する者が亡くなる辛《つら》さは果てしない、と。

 

 そんな彼女の想いを大事にしたいと思っていた矢先にショーンが訪ねてきた。

 初めは迷ったが、奪還軍に協力することは彼女の願いを叶えることに繋がると感じた。

 異母弟を皇帝に戻せば、きっと今よりはマシな世の中になるはず。

 ずっと、生意気で油断のならない男だと思っていたが今は違う。

 

『今』というか、『あの時から』と言った方が正しいか。

 とにかく、君主の素質を認めざるを得ない。少なくとも、自分よりは。

 

 もしも、下手くそな政治を行ったら助言をしてやってもいい。

 

 すべてはあの人のために――

 

 

 フレデリックは、自分なりの正義で、奪還軍を助けにやってきた。

 

 

 軍は、元配下の騎士隊や直属の生き残りで鳳凰城塞《ほうおうじょうさい》に居た者、鳳凰城塞の傭兵《ようへい》隊を集めてできたと、彼は言う。

 御皇兄《ごこうけい》の軍としては人数がかなり少ない上に頼りなかったが、助太刀に来る途中で母方の遠縁の貴族と会い、共に私軍を率いて来てくれた。

 もちろん下心あっての協力に違いなくも、レオはその貴族らにも礼を言った。

 ちなみにフレデリックの母のアンナには、まだ秘密にしておくとのこと。遠縁の貴族も了解していた。

 

 

 

 一通りの挨拶が済んでから、レオはフレデリックとも別れてひとけの無い場所に行き、一緒に来たショーンに即問い出した。

「あの時かよ!!

「え?」

「とぼけるな!!

 そういえば、砦の主塔で観ていた時も言いかけたような。

「あの時だろ!」

 レオには確信があった。

「預言者の家からの帰りに、オヤジ一人で鳳凰城塞に残った時あったよな!?

 

 つまり、その時にフレデリックの許へ説得しに行ったのではないか、と。

 

 言いたいことが分かったショーンは誤魔化せないことを悟って苦笑いした。

「ああ、そうだよ。その時。鳳凰城塞で馬を借りて、フレデリック殿の居る集落に向かった」

 

「やっぱコソコソと手を回すな! 俺に内緒で!」

 

 正直、これで何回目だと思うレオ。軍総隊長の自分に秘密で勝手な行動されるのは本来許されない行為。多分、奪還軍に始まったわけではない。

「昔から、本当にオヤジは……」

 シリウス直属・蒼《そう》騎士聖剣部隊の頃からあった。

 

 そして、腹が立つが大体ショーンの勝手な行動は好に転じる。

 今回もそうだ。

「でも、フレデリックが来たことは本当に助かった」

 

 まさか異母妹が……いや、ショーンは今回の防衛戦に於《お》いて、敵軍師が罠を張っていることを予想していた。この事はちゃんと軍総隊長に伝えていて、彼がショックを受けようとも、クリスティナが狙われやすいと忠告していた。

 だから、戦を見に来たのに。

 

 予想は当たり、しかも止めることができなかった。

 

「ただ、クリスティナ殿下は『人質』ではないみたいだな」

 ショーンの言い方に、レオは激怒する。

「はあ!? あいつが裏切ったとでもいうのかよ!?

「違うよ、自分の意思でもない。選んだのは姫さんだけど、そうせざるを得なかった理由があるはずだ」

 

 この話は、改めて話し合う必要がある。

 

 

 

 

「――そうです。殿下の侍女が刺されて……」

 

 

 北方警備隊・北東門の詰所《つめしょ》の一室にて。

 睡眠薬の影響で倒れながらも、なんとか事の一部始終を見ていた参謀が、薬の効果が切れてきた今、その時の状況をレオたちに報告する。

 

「クリスティナ殿下とフェリクス殿下は、仕方なしに向こうの思わくに従いました」

 

 クリスティナとフェリクスは、侍女の命を助けるためにシガの要求を呑《の》んだとの事。

 つまり、敵の小隊に連行されていった、と。

 

 話を聞いたショーンは頭を押さえた。

「ま、セイの許へ連れて行かれるって考えるのが妥当だろう」

 但し、『人質』ではなく、むしろ侍女のヘレンが人質状態であるとの予想をする。

「多分、クリスティナ殿下とフェリクス殿を味方にする気だよ」

「はあ!?

 すぐに反応したのはレオだ。

「あいつらが味方になるわけねーだろ!」

「もちろん」

 頷くショーン。

「でも、本人たちの意思はどうあれ、民衆や貴族たちに“そう”思わせたいだけだから」

 クリスティナがセイの味方になったと周りに思われるのは、向こうにとって好都合。

 皇家の人間がセイを認めていることになるし、

 

「クリスティナ殿下が奪還軍に居たのは『人質』だったと発表できる」

 

 軍師の言葉に、参謀は「確かに」と顔を青くしたし、レオは愕然《がくぜん》とした。

 

 

 確かに、彼女は自分の意思とはいえ、『人質』として奪還軍にやってきた。だから、フェリクス共々奪還軍に寝返ったのは、夫が敗けたゆえの強制だと言われてもおかしくはない。

「それこそ、セイの腹心的立場になったら、二人が奪還軍から『解放』された説が濃厚になる」

 まして、クリスティナとセイは兄妹。

 実兄の味方になるのは当然で、敵対している異母兄の軍に入っていたのは不自然に思える。

 

 危険を顧《かえり》みず、敵軍に潜入して救出したシガ軍師は大手柄だ。

 

 

「おっそろしい男だな。タヤマ君の兄貴は」

 

 一体、いつどこから、ここまでの計算をしていたのか? ありとあらゆる事がシガの罠に思えて恐怖さえ感じる。

 ショーンは頭を掻《か》いて、ため息をついた。

「なにが、『自分は野蛮ではない』だ」

 参謀に聞いたシガのセリフ。給水樽に毒ではなく眠り薬を入れたのは、野蛮ではないからと言ったが。

「単に、クリスティナ殿下が間違って飲んだらまずいからだろうが」

 クリスティナが水を飲む可能性は十分にあって、死んでしまっては元も子も無い。

 

「しかしまぁ、姫さんが降伏しなかったことだけは不幸中の幸いかな」

 

 アスールスの陸側防衛戦はなんとか凌《しの》いだ。

 心理的に追い詰められたクリスティナは苦しかっただろうが、フェリクスが止めたのだと参謀は話す。そして、フレデリックの軍が助太刀に来たことでクラウ公国軍を追い払うのに成功した。

 最悪の事態は免《まぬが》れたし、アスールス解放・防衛のための戦いはこれからともいえる。

 

「クリスティナ殿下とフェリクス殿は、酷い目には遭わないと思うし、ヘレンさんも大丈夫だろう。民衆や貴族たちの動向はまた探るとして……」

 ショーンの言葉の続きを、怒り心頭そうな軍総隊長が言った。

 

「ひとまずは、次の海戦だな」

 

「そう!」

 

 陸側は囮《おとり》であって、本軍が海にいる。

 囮は失敗したとて、……いや、失敗したからこそ、攻めてくるのが早まるかもしれない。

 レオは腕を組む。

「その前に解放だろ? タヤマの説得はうまくいってんのか?」

 

(偽)皇帝下の軍に包囲された町には、無血解放を狙っていて、皇帝が別人だと判明して混乱している今が好機。タヤマの交渉力にかかっている。

「ああ。まだ確認はしていないけど、交渉は多分問題無いだろ」

 彼の話術は素晴らしいので、恐らくは成功するとショーンは確信している。

「タヤマ君の力をもってすれば、混乱した連中を丸め込むなんて造作もない」

 戦わずしてアスールスを解放。更には、他国からの侵攻を食い止める仲間になってもらえたら万々歳か。

「只さ、そううまくいったとしても、海戦は難しいし……」

 ショーンは考え込むように俯《うつむ》く。

 

「一筋縄でいかない気はする」

 

 なんせ、相手はクラウ公国。タヤマの故郷であり、シガの故郷でもある。

 嫌な予感は一切消えない。

 

 

 

 そう、ショーンが心配する通り……

 

 ―――――

 

 

 ――連行されるクリスティナとフェリクスには、北方国境防衛戦の成功の朗報と共に不安な情報も聞かされる。

 

 サイの都へ向かって移動する馬車にて。厳重な警戒をしつつ、シガが自ら二人に話していた。

 

「陸からの侵攻が防がれても別に良いのです。ボクの目的は達成しましたので」

 目的はあくまで、クリスティナとフェリクスであった、と。

「それに、囮軍になってもらった軍の司令官は嫌いな貴族だったから、むしろ個人的には『いい気味』だと思えますね」

 クラウ公国にいた頃の感情か? 分からないが、問題はこの後の話にある。

 

「かといって、海を担当する本軍の司令も……ボクの両親ですけどね」

 

 シガ軍師の両親は、秘密裏《ひみつり》に聞いた情報ではクラウ公国の没落《ぼつらく》貴族だった気がしたが……司令の地位をシガの力で得たのだろうか。そう思うフェリクスの考えを見透かしたように、彼は笑う。

「もちろん、両親はボクに感謝しています。冴えない貧乏貴族が、今回の領土侵略作戦のおかげで『提督《ていとく》』にまで成ったのですから」

 冷徹《れいてつ》に見えた軍師でも、さすがに家族を想う気持ちくらいあったのかと思いきや、そうではなかった。

「あんなボンクラ共でも、タヤマにとっては大事な親ですからね。戦う相手だと知ったら、冷静な判断ができるか見ものです」

 言った後は吹き出すように笑った。

 

 自分の実の弟と両親を戦わせて苦しめて、一体何がそんなにおかしいのか……二人には理解できない。不思議そうに見るクリスティナに、シガは意地悪そうな顔をした。

「クリスティナ殿下には分かりますよね? 単なる血の繋がりでは情にはなり得ない、と」

 

 途端に顔を青くするクリスティナと、シガを睨みつけるフェリクス。

 そんな二人に、ほくそ笑みながらシガは脅す。

「殺気を帯びた眼で見ないでくださいよ、フェリクス殿下。……妻の侍女がどうなっても良いのですか?」

 聞いたクリスティナは震え出したが、首を振る。

「……なんて、冗談ですよ。ボクは紳士ですから、女性に下衆《げす》な真似はしません。丁重に扱っていますよ」

 ヘレンは今人質状態で、別の馬車に乗らされている。

「傷も、応急手当のおかげで命に別状は無いじゃないですか」

 二人が大人しくついてくる条件を呑む代わりに、刺された彼女には医師による応急手当てが施《ほどこ》された。もっとも、そのことに彼女は責任を感じているよう。

「侍女さんには、サイ城に着いたらまたクリスティナ殿下の付き人をやってもらうつもりですよ」

 安心するようにと、シガは告げる。

 もちろん安心なんてできないが、ヘレンの無事だけはクリスティナを安堵《あんど》させた。

 

 まさか、ヘレンが解放された後にフェリクスが人質にされるとは――この時は予想できずに。

 

 

 

 

 その頃。

 

 一先《ひとま》ず他国の侵攻を追い払ったといえども、警戒を怠《おこた》ってはいけないのは当然で、北方警備隊は各所厳重警備を再開。隊長・副隊長が不在になってしまった鳳凰・朱雀《すざく》聖騎士隊が、死傷者が多く出た北東門警備隊を中心に補佐をすることになった。

 

 とりあえずその辺りは良しとして、今度は海側防衛をしなくてはならない。

 偵察隊の情報によると、海側が本軍。しかもクラウ公国は海戦を得意としている。

 

 間に合うかは分からないが、心配になったレオたちは翌日アスールスへ向かう。

 その事や今回の事は本城のバシルに伝達して、ついでに本拠地で待っていると思われる恋人にも帰還が遅くなる話を伝えさせる。

 まさか、彼女らが西方へ旅立っているとは知らずに、フレデリック軍を共に出発した。

 

 ただ、『共』といっても、移動はやはり行軍《こうぐん》に加わらず別行動にする皇帝一行。

 

 

 レオは馬車の中で、ショーンが寝たのを見計らって、数日前から違和感が続く右足の靴を脱いだ。

 昨夜、砦の部屋でこっそり見た時はなんともなかったが、違和感が消えない。

 

 そっとズボンの裾《すそ》をめくり、右足首ら辺を見ると……

 

 

(あっ!!

 

 思わず声を出しそうになって、慌てて口を塞ぐ。

 

 

 不気味な黒い痕《あと》が足首から上に向かって、まるで巻きつく蛇のような螺旋《らせん》を描いていたから。

 

 激痛は無かったが、左足の時と同じだとゾッとした。

 その左足の痕は前と変わらず。広がってはいないが消えることもない。

 ただ、体全体でいえば、確実に広がっている侵食する呪い。

 

 

 レオは隠すようにすぐに裾を戻して靴を履く。

 

「ふぅ」と息を吐いて流れる汗を拭いた。

(激痛が無かっただけましか)

 

 もしも全身に広がったら……なんて……

 

 考えるのは嫌なので首を振る。

 

 念の為にショーンに相談してみるか、とも思ったが、奪還軍にとって大事な戦の前に余計な心配を掛けたら、良い策が思い浮かばないかもしれない。

(まだ足だ。広がるなら腕にも広がるかもしれない。そしたら、その時に聞いてみるか)

 全く不安が無いわけではないが、多分まだ大丈夫だと――自分に言い聞かせて、レオは黒い痕のことを考えないようにその後を過ごした。

 

 

 

 ―――――

 

 

 いっぽう……

 

 

 アスールス港町では、奪還軍が包囲せずに、管理している(偽)皇帝下の軍司令を説得。見事、無血解放が遂《と》げられる。

 

 交渉したのはタヤマであり、巧みな話術に加えて、カルロスが自ら姿を現す。

 最初こそ警戒されて刃を向けられたが、やがては奪還軍の総隊長が真の皇帝だと納得。それでもセイリオスに従うのか、真の皇帝側に就くのか、……迷っている暇は無いと、クラウ公国が侵略を企てている情報を伝える。

 

 半信半疑の軍司令の許へ、北方警備隊からの早馬が来て、クラウ公国が海から侵攻してくる可能性を示唆《しさ》。

 奪還軍の情報は確かだったと、アスールス解放及び領土防衛戦に協力することを承諾。

 

 

 よって、アスールス港町は自由になった。

 

 

 港町の人々は、やってきた大軍が奪還軍だと知ると、戦って皇帝下の軍を追い出してくれるのかと思ったが、数日に及ぶ話し合いとやらで突然、配備されていた兵たちが去ったので全く物事を把握できずに困惑した。

 町長が出てきて話した内容は、

 皇帝が実は別人だった為に管理下を解かれた事。

 奪還軍の総隊長がアルバート皇子であって、カルロスは謀反者ではなかった事。

 本日をもって、この町が自由になった事を発表した。

 

 それでも実感のわかない町民の前に、領主であるカルロスが現れる。

 

 カルロスは、まず町民に、解放まで遅くなったことを謝罪。誠意をもって深く頭を下げた。

 

 今まで、見捨てられたと思っていた町民は喜び、彼の苦悩を知り涙する。

 元々かなり人望があったために、裏切られたわけではなかった事実に納得。領主の誠意を受け止めて、改めて解放に歓喜した。

 

 

 だが、自由になった途端、次は他国からの侵略の標的という魔の手。

 奪還軍は海で食い止めることを約束して、船だけ借りてどんどん海に出て行ったが、念の為に住民はしばらくの間、女・子供中心に避難し始めた。

 元管理軍は、今度は避難民の護衛や町の防衛のために警備にあたった。

 

 

 喜びは束の間か。

 いや、せっかく解放が叶った町を全力で守るため、カルロスとタヤマは海に出る。

 模擬訓練は湖でたくさん行ったが、海と湖は違う……と、思いきや、水軍の兵は元々海の連中が多い。戸惑っているのは湖族や河に慣れた連中で、海族《うみぞく》や海賊はようやく自分たちの場所に帰ってきたとばかりに喜んでいる。

 特に海賊は勝手にどっかいってしまいそうで怖い。

 現にピーター船長は、仲間や傘下の海賊を集めると言ってどっかに行ってしまったが、本当に戻ってくるだろうか。

 

 いろいろと不安はあったが、なんとか頑張ろうとしていた矢先に、クラウ公国の使者と名乗る一隻の船がカルロスたちの許へ近づいてきた。

 警戒しつつ、出迎えたタヤマには、相手国の『提督』から伝言があった。

 

 そこで初めて、タヤマは自分の親と戦わなくてはならないことを知る。

 彼を動揺させるには、十分な効果だった。


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