創作した小説が世界の神話になっていた頃


 

[第二部・第八話:赤い髪の(巨乳)美女]

 

「あ〜〜〜〜〜!」

 車で出発して二日目の夜。

 本拠地にはまだ着かなく、本日泊まるまぁまぁ大きな町の宿にて。

 今日こそ一人部屋にしてもらった玲菜は鞄の中を整理していた時に、画面が真っ暗になっている携帯電話を見つけて大声を上げた。

「充電が切れちゃった!」

 そうだ。せっかくレオに見せようとしたのに。車の中で見せるのを忘れて、しかもずっと充電せずに放置していたので電池が無くなる始末。

 思えば、携帯電話の存在を忘れるなんて、ここでの生活に慣れすぎた証拠。半年間ずっと使っていなかったから、わざわざ元の世界から持ってきても馴染みが薄くなっている。

(前は肌身離さなかったのに)

 家でも外でもすぐ近くに置いていた。

 しかし写真やメール以外の活用はあまり無かったのだが。

(友達みんなスマホに変えてたもんな。私は、パケ代ケチってネットはパソコンでやるようにしてたけど)

 パケット代がお得な料金プランには入っていなかった。

 そもそも通話もネットもできない携帯電話を持ってきてどうしようとしたのか自分でも疑問。

(写真なら撮れたのに)

 逆に言うとそれしかできなかった。但し、電池が切れなければ。

 一応、充電器も持ってきたのだが、差し込めて合うコンセントが必要である。

(マリーノエラさんに頼めば……コンセント作ってくれるかなぁ?)

 天才な彼女なら或いは。

 他に、鞄の中に入っていたのは小さな鏡や化粧ポーチ。それと財布、ティッシュ等。家の鍵や車の鍵。友達と撮った別人のようなプリクラ。

 化粧ポーチには一通りの化粧品の他にリップや折り畳みの櫛なども入っている。

 折り畳みと言えば、夏だったからかオシャレで可愛い小さな日傘まで。

(なんか、意外といっぱい入っているな)

 見た目は可愛い割に、中はいっぱい入る仕様の鞄だったので、こちらへ来る直前に入れた母の形見のアクセサリーもある。

(これ見せたらショーンはまた喜びそう)

 

 来る時も思ったが、化粧品は無くなったらもう補充できない。元々こちらの世界にも化粧品はあるが、種類は少ないし品質は言わずとも現代の方が良いに決まっている。

(ちょっと特別な日とか、節約しながら使おう)

 そう思いつつ、玲菜は久しぶりにバッチリなメイクをしてみたくてうずうずした。この時代には無い化粧品でメイクして、オシャレな服を着たらレオは何て言うだろうか。

(そうだ! レオの誕生日に)

 彼の誕生日には絶対に使おう。

 玲菜はそう決めたがついつい手が伸びて試しメイクをすることにした。服装も、ついつい旅行鞄内の一番可愛い服に着替えてしまう。

 夕食も済んだ夜で、これからどこかへ出掛けるというわけではないのに。髪も整えてついつい着飾った玲菜は、この姿を見てもらいたい人物の方へ行く。

 それはもちろん、隣のレオとショーンの部屋であり。

 

 彼の反応がどうなのかドキドキしながら玲菜が部屋のドアを叩くと、出てきたのは目当てのレオで。しかもなぜか出掛けるようなコートを着ていたのでむしろ玲菜の方がびっくりしてしまった。

「え? レオ、どっか出掛けるの?」

「ええ? お前、何その格好?」

 二人とも質問を投げて、レオはバッチリメイクの玲菜にまんまと釘づけ。得意の直視状態で止まって、目が合うとあからさまに視線をそらした。直後の赤面と戸惑いが見て分かるほど。

「お、お前……なんか違う。なんか……マリーノエラみてぇ」

 厚化粧過ぎたか。

(気合入れすぎたかも!?

 途端に恥ずかしくなった玲菜は俯いたが、レオはまたじっと見てボソッと呟いた。

「可愛い」

「え?」

 玲菜が顔を上げるとお約束の如くそっぽを向く。

 

「もう一度言って?」

 これもお約束で、「言わねーよ」と言って照れる彼を玲菜は期待したが。レオは別のことを告げた。

「キスしたい」

「えっ!?

 玲菜が大きな声で訊き返してしまい、慌てて廊下に出て部屋のドアを閉めるレオ。

 小声で恥ずかしそうに言った。

「二度も言わすな」

 幸い、廊下には今誰も居ない。

 玲菜が返事をする前に、彼は顔を近づけて――

 

 甘いキスをした。

 

 すぐに目を閉じた玲菜は、唇が離れてから目を開けて、見えた彼の唇に思わず笑ってしまった。

「レオ……グロスが付いちゃったよ」

「グロ?」

 彼の唇にほのかなピンク色が付いてしまった。

「ん?」

 指で触って確かめてから手の甲で拭くレオ。

 なぜ彼女が濃い化粧をしているのかもう一度問う。

「お前なんでそんな格好してるんだ? どっか行くのか?」

「いっ行かないけど。元の世界からお化粧品持ってきててね。つい……あの、レオに見せたかったから」

「ああ、そう」

 レオはまた照れたように顔をそらした。

「いいんじゃね?」

「いい? ホントに?」

 実は化粧が濃いのではないかと心配する玲菜に注意する。

「だから、『良い』から! あんま顔を覗きこむな」

「ご、ごめん」

 しつこかったかと、玲菜は落ち込んだが。レオは沸き上がる衝動を抑え込むのに必死だった。

(可愛すぎるし色っぽいし。まずいな)

 このまま彼女の部屋に行って……という欲望をどうにか掃わないと。

(っていうか、誘ってんのか?)

 彼女の上目遣いはもしかすると……

(いや、そんなわけねーか)

 急いで自分の考えをかき消すように首を振ったレオは当初の目的を思い出した。

「ああ、俺はさ、オヤジが寝たから酒買いに行こうと思ってたんだけど。お前が起きてたらお前も誘おうかと思ってて」

「お酒? 駄目だよ」

 まだ移動中なのに、二日酔いなどになっていたら駄目だと玲菜は注意したが、レオは一緒に行けないのだと解釈した。

「駄目? そうか。もう眠い? じゃあ一人で行ってくるよ」

 いや、せっかく着替えて化粧したことだし、夜のデートには行きたい。

「一人で? え! 一緒に行きたい!」

「どっちだよ?」

 もう一度訊かれて、玲菜は即答した。

「行く!」

 

 

 こうやって、夜中に抜け出すデートは前にもあった。

 オアシスの町で、まだ恋人状態ではなかった数ヶ月前。いや、数ヶ月前は自分にとってで、彼にとっては二年前。

 あの時は凄くドキドキした。

 胸の高鳴りは今も変わらない。

 玲菜はさりげなく彼の手に触れて自分から手を繋いだ。

(冷たい)

 彼の手は冷たいが、繋いでいると熱くなってくる。

(レオ……好きだよ)

 彼を好きな気持ちは変わらない。むしろ大きくなるばかり。

 多分、告白したあの時よりも大きい。

「レオ」

 石畳の道はオアシスとは違う。建ち並ぶ高い建物も違う。たまにある街灯と、家や店から漏れる明かり。

 街並みも状況もあの時とは違うのに、満天の星は同じだから。

 

「好き」

 

 玲菜は思わず告白してしまった。

 

「え?」

 彼が立ち止まったことで、自分が告白していたことに気付く玲菜。

「あ!」

 我に返り、口を押えて真っ赤になる。

 その仕草が可愛すぎるのと、愛の告白をされた衝撃でレオの気持ちは舞い上がり。その場で彼女を抱きしめてしまった。

「レイナ!」

 二年間我慢していた反動で、再会してずっと抑えが効かない。

「レイナ……」

 彼女が居なくなってから、こんな幸せや安らぎはなかった。

(落ち着く)

 会えない寂しさだけではなく、自分の周りの不幸に落ち込むこともあった。

 身を犠牲にした部下たちや、濡れ衣を着せられた者たち。

 自分の身分や称号が乗っ取られることは不快だが別に問題ではない。ただ、おかげで周りの者を巻き込んだ。元々そういう生まれなので悩んでも仕方ないが。

(でも、さすがに平然としていられるほど薄情にはなれねぇよ)

 傷ついた誇りや悔しさだってある。

 国はどうでもいいと思っていた。長い間、自分の復讐だけ遂げられればいい、と。

 けれど即位すると覚悟してから、心境の変化はあった。

 自分なりに“皇帝”を演じてみようかと、柄にもなく責任を持った。

 

 ショーンたちが抵抗組織を決起した時、嫌々首領になったわけではない。

 自分の為に動いてくれている者たちの期待に応えてやってもいいと、自分で決めた。

 とりあえず遣られっ放しではなく、乗っ取った奴らを一発ぶん殴ってやるのも悪くない。

 最初は不安定だったが、二年経ってまともな組織になった。小さな反乱ではなく、そろそろ反旗を翻す革命の時が近付いてきた。

 そこに、不安や心配が一切無いわけではない。

 それに関しては皇子の頃から変わらない。シリウスという英雄と呼ばれて、たくさんの人間の命を犠牲に栄光を掴んだ。

 

 望んだのか望んでいないのか、考える余裕さえなかった。

 

 自分はシリウスなのか、アルバートなのか……

 

「レオ」

 彼女だけはレオとしての自分に安らぎをくれる。

 彼女が自分の名を呼んで“自分”を見てくれるだけですべてを忘れさせた。

 再会して、やはり彼女しかいないと悟った。

 この心地良さを与えてくれるのは彼女だけ。

「く、苦しいよ」

 

「ああ」

 玲菜からの『苦しい』発言でレオは我に返った。

「悪い」

 少し腕を緩めて苦しくないようにする。

「つい力を込めすぎた」

「うん」

 玲菜はそっと彼の服を掴んだ。

「苦しいけど、力を込められること自体は嫌じゃないんだよ」

「え?」

「だって……」

 これを言ってしまうのか。ためらいながら玲菜は口を開く。

「あ、愛されてる気が……するから」

 自分で言ってしまった。相手にそんなつもりなかったら恥ずかしい事この上無し。

 しばらく沈黙が続き、玲菜が「言うんじゃなかった」と後悔していると耳元でレオに囁かれた。

「俺の想いに気付いてたのか」

 そんなことを言われたら顔が熱くなって困る。

「うっ……あ、えと……」

 このままでいたい。けれど、道の真ん中で何やっているんだという恥ずかしさもあるので、玲菜は服を掴んだ手を彼の手の方に持っていき、横に並んだ。

「とりあえず、行こう?」

「どこに?」

 うっかり当初の目的を忘れるレオ。

「どこって! お酒買いにきたんじゃなかったっけ?」

 玲菜に指摘されてハッと思い出す。

「ああ、そうか」

「買わないの? っていうか、私的にはあんま飲まない方がいいと思うんだけど」

 言われて考えて、しかしレオは首を振る。

「いや、飲みたい。お前も飲むか?」

「え? 私は飲まないけど」

 断りつつ、疑問を感じる玲菜。

「っていうか、どこで飲むの? 自分の部屋?」

「俺の部屋はオヤジが寝てるし。お前の部屋借りてもいいか?」

 昨晩の例もあり、玲菜の部屋で二人きりで飲むのは何か妙な気分になるのではないかと構える。

「あ、えーと。どうしようかな」

「それか無理なら酒場に行くけど」

 レオの提案に、居酒屋みたいな所を想像して頷く。

「ああ、そっちの方がいいんじゃない?」

 ――考えが甘かったと気付く……いや、むしろ後悔するのは実際に酒を飲んでからだ。

 

 

 

「ね、もうやめなよ、レオ!」

 町の商店街の一角の大きな酒場にて。

 羽目を外したように飲みまくるのはお酒大好きレオで。最初やんわりと止めていた玲菜は、なんでこうなる前にもっとキツく止めなかったんだと後悔する。

 彼はもう何十杯も飲み干していて、酒豪ではあるはずだがさすがに酔ってきた様子。

「絶対に負けられない戦いがここにある」

 ここまで飲んでしまったのには訳があった。

「なんでそんなサッカーみたいなこと言うの?」

 玲菜の嘆き声は大騒ぎの野郎たちの声でかき消される。

 

 つまり――店内では酒豪たちによる飲み比べ大会が開催されていて。

 

 まんまとその大会に参加してしまったレオ。

 しかも見事に勝ち進んで、優勝するには残り僅かな人数を酔い潰すだけ。

 見物人の客たちは賭けをしていて、自分の賭けた相手を必死に応援、激励する。

 優勝者にはその儲け金の一部が賞金として支払われるという仕組み。

 

 レオを除いて残るは、いかにも飲んだくれ風のおっさんと、やたら色っぽい巨乳美女。二人とも違う意味でそれぞれ酒に強そうであり。

 玲菜はハラハライライラした。

 イライラの原因は、酔っぱらったレオの視線にある。

 巨乳美女の胸元を何度も見ている気がするのは絶対に気のせいではない。

(気持ちは分かるけど)

 女の自分でさえ何度も見てしまいそうになる巨乳。

 ただでさえレオは巨乳が好きなのに(玲菜の予想)

 比べて自分の胸の無さに絶望と悔しさを感じる。

 周りの野郎どもは皆その美女に(特に胸)注目している様子。

 

 そう思ったら、ついにおっさんが酔い潰れてレオと巨乳美女の一騎打ちとなった。

「うふふ。アナタ、結構強いわねぇ」

 赤に近い茶色いウェーブの長い髪を後頭部で一つに結った美女は、二十代後半……か、もしくは三十歳前後に見えるのだが、大人の色気が半端なく胸元の開いた色っぽい服を着ている。赤い大きなピアスが印象的で瞳も赤っぽく見える。

 酒をぐいっと飲み干すと誘っているような視線でレオに喋ってくる。

「見た目も男前だし。私、いい男って好きなのよねぇ」

 慌てて玲菜はレオにしがみついた。

「ね、ね! もういいから、お終いにしよう? 明日ショーンに怒られちゃうよ」

 なんとなく、『彼女』アピールもあった。

 しかしレオは玲菜の腕を優しく解いて次のコップを持った。

「大丈夫だよ、あと何杯かは。絶対負けないからやらせろ」

 すでに酔っていてフラフラしているのに意地で酒を飲み干す。

 ドンッとテーブルに大きな音を立てて空のコップを置き、相手の巨乳美女を窺う。

 

 対して美女はまだ余裕げだったのだが、コップを置いて限界そうなレオに近付いた。そして――

「アナタ、そんなに酔っぱらっちゃって、もし私が暗殺者だったらどうするの?」

 意味深長なことを呟くと首に手を置く。

 

 一瞬、レオは懐かしい記憶を思い出して護身用の刀に手を伸ばした。

 うかつだった。

 襲撃事件後に身を隠してからは暗殺者に狙われることが無くなったから。常に警戒する感覚も麻痺していた。

 彼女が一緒に居るから、つい気が緩んで。本当は大事な人が一緒に居る時ほど気を引き締めなくてはならないのに。

 もし置かれた手に刃があったらもう遅い。

 

 そう焦った次の瞬間、美女の顔が近付いてきて自分の唇に柔らかい唇が触れたから。

 

「ん?」

 

「ああああ!!

 驚愕している玲菜の悲鳴が聞こえて、何が起きたのか気付いた。

 

 いわゆる接吻。触れたのは一瞬だが、確実に美女の唇で、証拠に彼女の赤い口紅が付いた。

 酔っぱらっていて反応が鈍った。暗殺者だと思って別のことに気を集中してしまった。

 まさかキスされるとは思わなくて、しかも瞬間的だったので避ける間も無かった。

 

「今回は私の負けでいいわよ、お兄さん」

 巨乳美女はそう言うと楽しそうに背を向ける。

 静まり返った店内が「おおおおお!」と大騒ぎになり、「羨ましい」などの声が上がる。

 賭けに勝った者は大喜びでレオを称えて、呆然とする彼に店を去ろうとしている美女が言った。

「また会いましょうね! “持ち主”のお兄さん」

「え? おい……待てよ」

 衝撃的な事に酔いの醒めたレオは『持ち主』という言葉を不審に思って美女を引き留めたが。

 振り返った巨乳美女は悩ましそうな表情をした。

「なあに? さっきので私に惚れちゃった? キスの続きは駄目よ〜? 彼女泣いちゃうわよ」

「あ!!

 レオはすぐに玲菜の方を見る。

 そこには目に涙を浮かべた彼女の姿が。

 しかも。

「もう……知らない」

 泣きそうな声でそう言うと走り出す。

「ま、待て! レイナ!」

 慌てて追いかけようとしたレオは、酔っぱらいのおっさんたちに行く手を阻まれてすぐに追いつくことができずに苦戦した。その際、ついでに巨乳美女の居た場所を見たが、すでに居なく。

 ようやく店を出た時には玲菜が遠くに走っていくのが見えてまた全力で追いかけた。

「レイナ! 待てよ!」

 叫んでも彼女は止まらずに宿に向かっているよう。

 元々酔っていたレオは思うように走ることができずに、ついに宿でも追いつけなく彼女は自分の部屋に入って鍵を閉める。

「レイナ、違うから」

 レオはドア越しになんとか言い訳をしようとしたが、今更酔いが回って気持ち悪くなり。仕方なしに自分の部屋へ戻って寝ることにした。

朝、とにかく誤解を解くことを心に決めてベッドに入るとそのまま死んだように眠ってしまった。

 

 一方、玲菜は。

 彼が意地でも言い訳をしてくるのだとばかり思っていたので、あっさり諦めて部屋に戻った様子を知って悔しくなる。

 先ほどの悪夢のような光景を思い出しては嫌な気分になり、泣きながらベッドに入った。

 酒に酔っていて隙を突かれたのは分かる。彼がその気になったわけでもないし、相手も挨拶くらいノリだったのだろう。

 けれど、よりにもよって巨乳な美女とキスってところが最悪だ。

(どーせ私はBカップだもん)

 まさか、これをきっかけに彼女に心を奪われる……なんてことはないと信じたいが。

(でもレオ、巨乳好きだし)

 というのは予想で、聖女好きの彼のタイプではないけれども。

「わぁあああ〜」

 恐らくもう二度と会わない相手。

 分かっているのだが、玲菜は悔しさや哀しさや怒りを感じて布団の中で泣く。気を紛らわすために声を出して、泣き疲れたらそのまま眠った。

 

 

 ―――――

 

 

 その頃。

 町の静かな路地にて。

 周りには、他に誰も居ないのに一人で喋る女性の姿があった。

 それは先ほどの巨乳美女で、酔っぱらっているのか、誰かに文句を言っている。

「うるさいわね〜。ホント固いんだから。べっつにキスくらいいいでしょ? 好みの顔だったんだし」

 美女は「ふふっ」と笑うと、空に向かって話しかける。

 

「っていうか、シドゥリちゃんにとっても好みだったんでしょ? 知ってるんだから」

 

 ただ、間を空けてから反省したように苦笑いした。

「まぁ、そうね。確かに彼女の前ってのはまずかったわねぇ。彼女にかわいそうなことをした」

 そうして歩き、どこかへ向かう。

「もう寝るわ。朝になってシドゥリちゃんが寝不足なのもかわいそうだし。私っていい姉でしょう?」

 

 

 大通りに出ると、月を見上げて美女は懐かしそうに呟く。

「久しぶりにあいつの気配を感じるなんて……ね」

 その表情は、どこか切なそうな瞳をしていた。


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