創作した小説が世界の神話になっていた頃


 

[第二部・第八十二話:精霊術]

 

「やっぱ、喧嘩とか会えない時間の後は……いい、よな」

 

 いきなりとんでもないことを言い出したレオの頭を、玲菜はぶっ叩いた。

 

「何言ってんの!!

 

「いってぇ!!

 頭を押さえながらレオは、「叩かれる覚えはない」と不満げに返す。

「お、お前が、何か喋ってって言ったんだろうが」

「言ったけど!」

 玲菜の顔は真っ赤だ。

「そういう感想みたいなのはいいから!」

「はあ?」

 では、何を喋ればいいのか、レオにはさっぱり思い浮かばない。

「感想以外で? なんだ?」

 

 甘い言葉を期待した自分が馬鹿だった。

 玲菜は心の中でため息をつきつつ、彼の肩に頭を乗せる。

 歯の浮くようなセリフが無くても、幸せだけは感じられた。

(温かい……)

 頭と体を傾けて彼の胸に手を置くと、彼もまた抱き寄せてくれる。

(っていうか、心地いい)

 目を閉じるだけで眠れそうな気分になる。

 うっかり眠ってしまう前に、自分から伝えようか。

 

「レオ、好きだよ」

 

 告げられてようやく察したレオは、自分も照れながら答えた。

「ああ、俺も……お前が好きだ」

 そっとおでこにキスをする。

 

 だから玲菜は顔を上げて、また二人で口づけを交わした。

 

 

 その後は寄り添って共に眠りにつく。

 

 夢心地とはまさにこの事だろうか。幸せな気分を満喫した。

 

 

 

 

「――では、始めます」

 

 翌朝、二人がのんびりイチャイチャしている暇も無く、タチアーナ・エド・アフと玲菜・レオはショーンの部屋へ集まった。

 先に朝食等を頂き、落ち着いたところでタチアーナが仕切った。

 

 エドとアフが出すのは精霊石エアとアクア。二つで一つのエア・アクアとなる。

 タチアーナは二つを机の上に置かせて、改めて説明を始めた。

 

「これから、レオさんの体に刻印された呪いを抑えましょう」

 

 その前に軽く自己紹介をしたアフは、レオの正体に薄々勘付いたが、特に訊ねたりもせずに驚きを隠す。

 自分の先祖の伝承のみで知っていた『呪い』がどんなものか、ごくりと息を呑んで見守った。

 先祖は『魔眼《まがん》』が移植されたことで、護符をしても尚、顔半分は蛇のうろこのような皮膚になった。しかも、命が削り取られていき、短命だったという。

 ただ、目の前のレオの呪いは、それとは違う。

 もう一つ先祖から伝わっている、冥界《めいかい》の王に呪いを受けた男の話と、ほぼ同じだ。

 

 恋人を生き返らそうとして、背中に呪印を刻まれた男は、水の神・エアの涙とされる『聖なる水源』の泉で、洗礼をして呪いを解いた。

 

 エア・アクアには、それほどの力は無くとも、『魔』を浄化するくらいはできる。

 アフはてっきり、精霊術をレオ自身に掛けるのだと思い込んでいた。

 だが、実際は違った。

 

「まずは、ショーンさんの持つ『蒼《あお》人魚の血』に精霊術を掛けて毒を浄化します」

 

「え?」

 

 アフが質問せずとも、タチアーナは訳を答えた。

「人魚は、水竜の力を与えられて進化したヒト種族。普通の人間にとって毒なのは魔術の力」

 血には魔術の力が宿り、飲んだ人間を死に至らせる。

「エア・アクアの力を引き出して、魔だけを浄化すれば、青族と同等の血に生まれ変わるはずです」

「え? あおぞく?」

 レオの呪いを抑えるのに必要なのは、青族の血だった。

 

 青族は、癒しの血を持つ伝説の亜人《ア=ヒト》であり、蒼人魚は青族と人魚の混血。

 亜人《ア=ヒト》のことを詳しく知らなくて混乱するアフにタチアーナはニッコリと微笑んだ。

「アフさんはエア・アクアの力を引き出す精霊術をお願いします」

 

「はい! 喜んで!!

 

 よく分からないのにこの即答は、惚れた弱みか。

 てっきり、タチアーナはアフの気持ちに全く気付いていないと思っていたので、玲菜は恐ろしくなった。

(あれ? タチアーナさんって、アフさんの気持ち気付いてる?)

 自分のことが好きならば、頼みを聞くだろうと……もしも、計算していたら。

 実は、淑女《しゅくじょ》の方こそ魔性の女か?

(まさか、まさか違うよね? 計算じゃなくて、単にお願いしただけだよね?)

 玲菜は不安をかき消すように首を振った。

 

 ボーッと聞いていたショーンは、ハッと我に返って、自分の荷物の中から『蒼人魚の血』の入った小瓶を取り出す。

 そっとエア・アクアの隣に置いた。

 血とは思えない青色の液体がそこに入っている。

 

 今更だが、偽物だったらどうしようかと思ったが、タチアーナは真剣な顔で頷《うなず》いた。

「さすがショーンさん。本物を間違わない」

 

 彼女はフフッと笑いながら言った。

「冥界の王の呪いは本来、蘇生した者が、魂の洗礼をしないと解けません」

 蘇生した者というのはショーンのことなのか。

「そもそも、蘇生術の成功はありえませんので、施行《しこう》者が呪いを受けて死ぬだけで終わります」

 奇跡の蘇生は、ショーンに封印術が備わっていた他に、レオが特殊な力を使ったことにあった。

「レオさんの呪いは、冥界の王の呪いではありません」

 冥界の王というのは、すなわち、今でいうアヌーのこと。

 もしも、アヌーの呪いであれば、聖なる水源で対処していたことになる。現存するエア・アクアにその力が無いという問題はさておき。

 

「レオさんが使った力は、パンドーリアの剣に入った“災い”の力」

 

 瞬間的に死者の塔のことを思い出す玲菜。

 

 月の力……といっただろうか。

 自分が、時空の渦へ行く際に必要だったのが、アヌーの結晶石と擬似的ブルームーン。

 ブルームーンの現象を作り出すのが『月の力』といったはずだ。

 ショーンの知識を頼りに死者の塔という遺跡を探検して、古代人の魔術的な何かがシリウスの剣に入ったような……。

 

 タチアーナは続ける。

 

「災いの力を使った蘇生術だったからこそ、奇跡が起きたのです。但し、呪いは強力で、封印術以外で消すことはできない」

 

 唯一、青族の血のみ、進行を抑えることが可能。

「青族の血の力を引き出す精霊術は私がやります!」

 

 

 まずは、アフが精霊術を施行することになる。

「ええと、エア・アクアから力を引き出して、その小瓶に与えればいいですか?」

 アフが立ち上がるとタチアーナは頷く。

「はい。お願いします」

 その微笑みに、彼は一気に顔を引き締めてアフロ髪を掻き上げる。

 皆は静かにして、玲菜は成功を祈った。

 

 彼はフゥと息をついて集中するように目を閉じる。

 

 精霊術を生で見てみたかったショーンは、誰よりも身を乗り出して注目した。

 

 

 やがて、アフは机に手を置いて唱える。

 

 

『高貴なる精霊エアよ。我が声に耳を傾け、力を貸したまえ。友を想った涙を聖なる水源としてここに甦らせ、闇を浄化せよ』

 

 

 次の瞬間には、エア・アクアが光り、水色の光の球が浮き出てくる。

 精霊術を初めて見たレオとショーンは目を丸くして止まり、その間にフワフワと光の球が移動して小瓶に落ちた。

 途端に、光がはじけ飛び消える。

 

 小瓶の中の青い液体には変化無く、一同が夢でも見たかのような雰囲気になった。

「ん? なんだ今の」

 思わず不審そうな目を向けてしまったレオは、ドッと汗を掻いているアフにびっくりする。一応玲菜が教えてあげた。

「精霊術って、凄く疲れるみたい。一日一回しかできないんだって」

「へぇ」

 しかし、肝心の毒が抜けたかどうか、これでは分からない。

 失敗か、成功か?

 

「大丈夫です。成功していますよ」

 タチアーナに言われてもピンとこない。

 ただ、アフの頭がびしょびしょなのが気になるだけ。

「お疲れ様です、アフさん。やはりさすがですわ」

 好きな女性からの言葉で、アフは照れながら顔をキリリとした。

「いえ。大したことないです」

 その丸分かりな態度に、うっかりレオが口を滑らせてしまった。

「あ? お前、タチアーナのこと……」

「レオさん!」

 なんと、止めたのは今まで黙っていたエドだ。ずっと静止していたので、危うく置物のように感じていたレオは、むしろ声を出したことにびっくりしてしまった。

「え、エド! 急に喋るな!」

「失礼しました」

 おかげで、アフのバレバレな想いは公表されずに済んだ。

 

 気付いていないのか、気付いていないフリなのか、平然とタチアーナが口を開いた。

「では、次は私の番ですね」

 

 いよいよ、レオの呪いの進行を抑える術に入る。

 玲菜は更に緊張して強く祈った。

 

 思えば、レオの背中に焼印が刻まれてからずっと怖かった。

 正体が分からない時でも禍々《まがまが》しさはあった。

 タチアーナからいろいろと教わった後は、いつ全身に広まるか分からない恐怖もあった。

 精霊石を探していた時も、常に不安が過《よぎ》る。

 もし、手遅れになってしまったら……なんて、考えたくない。

 

 多分、本人よりも緊張していた玲菜は、父の事も気にせずに彼の手を掴《つか》む。ギュッと握って、声を絞《しぼ》り出した。

「大丈夫だから、レオ。絶対成功する」

 激しい緊張が伝わって、レオの方が笑ってしまう。

「お前、緊張しすぎだから」

「うん……うん」

 ショーンの前なのに、レオは彼女を包み込む。

 

「心配してくれて、ありがとな」

「レオ……」

「玲菜……」

「レオ君……」

 最後、二人の世界に入り込んで名前を呼んだのは満面の笑みのショーン。

「タチアーナが、そろそろ始めるってさ」

 

「あら、私は待っているので、どうぞごゆっくり……」

 タチアーナは許しても、父親は許さない。

「いや、早くやってくれないと落ち着かないよ。万が一に、急に刻印が広がっても困るしさ」

 相変わらずの予防線の張り方に呆《あき》れつつ、タチアーナは立ち上がった。

「そうですね」

 レオに。

「では、脱いでください」

「は?」

「刻印に直接術を掛けますので、お願いします」

 

「あ〜〜〜」

 ためらう当人に、首を傾《かし》げる。

「恥ずかしいですか? では、別室へ行きましょうか」

「そ、それはいけません!」

 止めたのはアフで、脱いだレオとタチアーナが別室に行くのは、術のためといえども気に食わない様子。

 確かに玲菜も少し嫌であり。

 

「いや、恥ずかしくはないけど……」

 レオは恥かしさよりも気まずさがあるらしい。

 ただ、隠してもしょうがないと思い、正直に言った。

「実は……刻印が……両足にも……」

 

「なんで黙ってたんだ!!」と、ショーンには怒られて、玲菜には泣かれる始末。

 

 

 

 しばらくの後、二人がようやく落ち着くと、レオはシャツとハーフパンツに着替えて皆の前に姿を現した。

 

 確かに彼の告白した通り、両足に黒く渦巻く禍々しい痕《あと》が。

 ショーンは頭を押さえて、玲菜は口を押さえ、タチアーナもため息をついた。

「……危ないところでしたね」

 この一言がかなり重い。

 

「あー」

 でも、とレオは言う。

「術が効くか分かんねーから、効かなかったら同じっつーか」

 それは確かにそうだが、玲菜が強い眼で彼を見つめる。

「レオ! 絶対効くから」

 

「……そうだな」

 苦笑いして彼はシャツを脱いだ。

「タチアーナ。頼む」

 

 一瞬顔を赤らめたのはさておき。

「そうですね」

 タチアーナは蒼人魚の血が入った小瓶を手に持った。

「では、うつ伏せになってください」

 

 言われた通り、ソファにうつ伏せで寝るレオ。

 蜘蛛《くも》の巣のような背中の刻印は大きく広がり、禍々しさが強くなっている。

 両足の黒い螺旋《らせん》も同じく。脚全体に巻きつく蛇のよう。

 

 タチアーナは膝を床につき、片手に小瓶を、もう片方の手はレオの背中に添える。

 

 静まり返った部屋で、彼女の唱える声が聞こえた。

 

 

『我が声に耳を傾けるのは青い眷属《けんぞく》・精霊シルフ。ここに在る癒しの血より、闇に刻まれた呪いの食い止めを求む。今より風を呼ぶ我が力となりたまえ』

 

 

 唱えた後、窓の開いていない部屋に風が吹き抜けた。

 

 とても優しく暖まるような風。

 

 タチアーナの手がぼんやりと青く光る。

 こんな光景、昔見たら信じられなかったかもしれないが、さすがに少しは慣れた。

 確かにそこに、何かの『力』があるのだと感じる。

 大昔に失われた術というのだろうか。

 

 光はしばらく目に見えていたが、段々と消えて、風も治まった。

 

 アフと同じく、タチアーナも疲れたように息をついた。

「終わりました」

 肝心のレオの刻印はそのままだし、効いたか効いていないのか分からない。本当に進行が抑えられたのか、本人も首を傾《かし》げた。

「なんか……分かんねーけど、体は軽い気がする」

「恐らく、徐々に侵食していくのは止まったと思います」

 彼女の言葉に、一同は明るい顔をしたが、呪いが解けていないのは同じ。

「このまま、剣の力を解放しなければ、何事も起きずに過ごせると思います」

 二度と剣の誘惑に負けてはならない。

「ですが、もしも闇の力を使ってしまったら、再び侵食は始まります。レオさんの今の状態ですと、一回で全身に刻印が広がるでしょう」

 その時は、呪いが完了して命が吸い取られる、と。

 

 ゾッとする話はさておき、それでも玲菜は感謝の気持ちでいっぱいになった。

「タチアーナさん! アフさん! ……エドさんも。ありがとうございます!!

 不安が全く無いわけではないけれど、なんだかホッとした。

 気が緩んだせいか泣きそうで、まだ服をちゃんと着ていないレオに抱きついた。

「レオ!」

「おわっ!」

 自分は構わないが、ショーンの目が気になったレオは彼女を一旦離す。

「……着てから」

 見ると彼女の目には涙が溜まっていて、体も震えているので……やっぱり着てなくてもいいか。そのまま自分に引き寄せて抱きしめる。

 

「ありがとう、玲菜」

 

「……うん」

 彼の温かい腕に隠れて、玲菜は涙を流した。

 

 

 ――と、二人が良いところなのも束《つか》の間。タチアーナがすぐに提案を出した。

「では、そういうことなので、レオさん! パンドーリアの剣を出してください」

「え?」

「預かりますから」

 

 彼女の言い分はつまり、剣の力を解放しなければ大丈夫なので、そもそも手放しておくに限る、と。

「普通に剣を使う分には平気ですけれど、やはり誘惑の力があります」

 剣は魔性の女のように、持ち主を誘惑する。手に持っているだけで、知らずに力の解放へ気持ちが傾いてしまうのだという。

 

 説明の比喩《ひゆ》が悪かったのか、レオは平然と断った。

「大丈夫だよ。俺は女の誘惑には負けないし、ただ持っているだけならいいだろ?」

 

 唖然《あぜん》としたのは一同だ。

「レオ、お前なぁ……」

 本人が気付いていないのでショーンが注意した。

「それがすでに誘惑に負けてるっていうんだよ! タチアーナの言う通りにしろ」

「は? そうじゃねーよ」

 あくまでも本人は冷静だと思っている。

「誘惑とかじゃなくて、シリウスの剣は『力』関係無く、切れ味が抜群なんだよ。しかもありえないくらい軽い! こんな剣は多分、他に無い」

 眼はとても真剣だ。

「これから大事な決戦もあることだし、手元には絶対に置いておきたい」

「いけません!!

 タチアーナが止めても聞く気配は無い。

「なんでだ!? 力は絶対に解放しないって言ってるだろ!? 俺を信じられないのか!! あの剣は……」

 

「駄目!!

 

 もう一度、玲菜は叫んだ。

「駄目!! レオ!! 絶対にダメだよ!!

 必死に。

「お願いだから、心を強く持って、手放して!」

「俺は別に、合理的に考えて……」

 

「駄目!!

 

 あまりの勢いに、レオは息をついた。

「……分かったよ」

 

「……愛の力は偉大です」

 言ったのはまさかのエドで、レオを説得した玲菜を称賛している様子。ただ表情も分からないし、感情があるか無いかも不明な人物(?)なので微妙な空気が流れる。

 気を取り直してショーンが仕切った。

「じゃあレオ、シリウスの剣をここに持ってきてくれ」

 

 渋々と、レオは自分が使っている部屋に置いてある剣を取りに行った。

 

 ―――――

 

 そして、かなり渋りながらもタチアーナに渡す。といっても、中々手を離さなかったので、玲菜が優しく放させた。

 

「俺の剣なのに……」

 レオが未練を持つ一方で、精霊術士のアフは恐ろしげに剣を眺めた。

「禍々しい剣ですね。タチアーナさんは持っていても平気なのですか?」

「私は耐性があるので大丈夫です」

 耐性とは? と、皆が訊く前に、彼女は静かに話し始めた。

 

「この剣は、姉の恋人が造り出したものなのです」

 

「お姉さんがいたのですね」

 初耳のアフとは裏腹に、皆の脳裏にはイナンナが浮かぶ。

 

「パンドーリアの剣を造った男は、私の姉を模《も》した……人格を剣に組み入れていました」

 

 タチアーナの言葉で、死者の塔で見た赤い光の立体映像風の女性を思い出した。

 あれは確かに、夜のタチアーナ(イナンナ)に似ていた記憶がある。

「あっ……! あああ!」

 いろいろと繋がって興奮したのは玲菜だ。

 

 恐らくとてつもなく大昔のことだろうが、アフだけはタチアーナに似た姉と恋人の鍛冶屋を想像していた。

 

 そういえば、最初に出会った頃からタチアーナは剣のことを気にしていた。レオが所持していたことを見抜き、警告をしてきた。

 

「姉の恋人は、死者の塔の地下で、ひっそりと長い年月をかけて剣を造りました。ただ、元々は姉を助けるために造ったものだと」

 元が恋人のためでも、やがては持ち主を不幸に陥《おとしい》れていった剣。

「その剣って、壊せないですかね?」

 あまり考え無しにアフが訊ねてみたが、タチアーナは首を振る。

 

 ふと、玲菜は考える。

(溶解炉《ようかいろ》に投げ入れるとか? ……まさかね)

 

 同じことを想像していた父は、映画じゃあるまいしと考えを消したが、やはり手元に資料が少ないのがつらい。

(どっかに書いてあったんだよな〜)

 都の自宅に帰ることができれば良いのに。

 いや、帰れないこともないか。

 都は現在混乱していると、密偵の情報ではあった。

 

 そして、アフには首を振ったが、タチアーナもまた方法を探る。

 剣は昔とは違う。

 もしかすると壊せる可能性もあるのか。

 昔は壊せなかった方法でも今ならば……?

 ――ここまで考えて、やはり無理だと頭を押さえた。

 

 多分、現状では自分が剣を預かるのが最善だ。

 

 

 とりあえず精霊術は成功した。剣もタチアーナに預けた。

 持ち主《レオ》の手元に無い限りは力を解放することはないので、ひとまずは安心、か。

 

 

 なんだかこのままお祝いでもしたい気分になった玲菜はレオに駆け寄る。

「ね、レオ! パーティーしようよ!」

「……え?」

 反応少し遅くレオは驚いた。

「パーティー? なんの?」

 あ、そうか。

「結婚式?」

 

「その前に、会議だよ」

 浮かれた二人を父が現実に落とした。

 

「サイ城攻略するんだろうが。いよいよ」

 

 まさか忘れていたとは言わせない。

 いや、忘れるわけは無いが。

 

「……お祝いしたかったのに」

 しょんぼりする恋人を見て、レオは参謀長に訊ねた。

「作戦は参謀が考えるんだよな?」

「もちろん考えるけど、お前も出席してもらいますからね、軍総隊長」

 中途半端に敬語が入る様は、ショーンの威嚇《いかく》でもあり、軍総隊長は情けなくも目をそらしながら返事をする。

「……もちろんだとも」

 

 いよいよサイ城攻略の作戦会議が、本格的に始まろうとしていた。


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