創作した小説が世界の神話になっていた頃
[第三十一話:人質]
ようやく狙いの獲物が来たと報告があった直後、大勢の人間の階段を下りる足音や声が聞こえた。
ユナの手下は、部屋に居る五人だけではなかった。
(ユナの味方の兵って下の階にいっぱい居たんだ)
玲菜は悟る。
塔は螺旋《らせん》階段になっていて、下から来る敵に立ち向かうにはうってつけの構造。レオは上から来る敵全員と戦わなければならないし、下手すると一人で相手をしなくてはならない。
(レオ……!)
たとえここにたどり着いても自分が人質に取られていて動けなくなるのは必至。あとは朱音がどう出るかだが。上からかもしくは窓からか。まだ援護をしに来る様子は無い。
(援護したくても来られないよ。だって私が居るんだし。どうにか逃げないと)
玲菜は考えたが、椅子ごとロープで縛られているので自由に身動きが取れない。
階段からは武器を交える音や叫び声や聞えて、その度に叫び声の主がレオではないかと玲菜は不安になったし、段々とその物音が近付いていきて一層緊迫してくる。
その内にいつの間にか静かになって。
やがて、階段を上る数人の足音が聞こえる。
てっぺんの部屋に姿を現したのは皇子と二人のくノ一で。どうやら階段の敵をすべて倒したらしく、息を切らし、返り血を浴びて刀は血に染まっている。
一方、階段の味方を全員倒されたのに「計算通り」という風に玲菜の首に短剣を近づけるユナ。
玲菜は恐怖で震えそうになったが、ぐっと唇を噛みしめた。
(怖がっちゃ駄目。怖がったら足がすくんで何もできない)
とにかく呼吸を整えて冷静になろうとする。
五人の屈強な男たちはユナの前と玲菜の後ろ、窓の近く、屋上への階段の前、レオの前、と皆が配置に着いた。抜かりはないように見える。それに、レオが少しでも怪しい動きをしようものならユナが玲菜の首を刺してきそうだ。
レオは少し呼吸を整えてから玲菜に向かって言った。
「あまりに遅いから、朱音に捜してもらって迎えに来た」
(レオ……!!)
泣きそうになったのを堪《こら》えて玲菜は言う。
「ごめん。私、人質になるなんて、迷惑かけて」
二人の会話を遮《さえぎ》るのはユナだ。
「分かってると思うけど、武器を全部置いて!」
彼女の命令通り、レオと後ろのくノ一は刀やクナイ、すべての武器を床に置き出した。それを見ていられなくなった玲菜は叫ぶ。
「やめてよ! 私は平気だから! 武器を置かないで!!」
ユナは興味津々にレオの顔を見た。
「ホントに。皇子本人よね? やだー。びっくりしちゃう。本当に、レイナのことが大事だったの? 一体どういう経緯で?」
「お前はあの時の……」
レオはユナに気付く。
「強制送還されていなかったか。宗教警殿《しゅうきょうけいでん》の看守は首だな」
「その前に、アナタ死ぬけど」
クスッと笑うユナを睨み付けながらレオは武器をすべて置く。後ろに居るくノ一も同じく。
「おいっ!」
武器は持っていないのに、レオは平然とユナに言った。
「今ならまだ、死刑だけは許してやらんこともない。レイナを放せ」
「え?」
ユナは顔をしかめた。
「何言ってるの? 虚勢? なんでアナタが命令する立場なのよ。皇子のプライド?」
そして、レオの前に居る屈強な男に眼で合図する。
すると、男はレオの腹を思い切り殴った。
「やめて!!」
「……くそっ!」
叫ぶ玲菜と片膝をつくレオ。
「あははは! いい気味ー! あの時の恨み、私は忘れてないからね」
その、ユナが笑った瞬間――
窓を突き破ってクナイが外から飛んできた。
「何!?」
とっさに避けるユナ。
玲菜にはそれが朱音のクナイだとすぐに分かった。
「危ないじゃない。外に仲間が居るのね。私を殺そうと思ったんだろうけど、残念だったわね」
ユナはそう言ったが。朱音は彼女を狙ったわけではないと玲菜は判断する。
クナイが切ったのは自分のロープだったから。
きっとこれは逃げる合図だと意を決する。
レオの方へ逃げるのか? いや、しかし彼の前には大男。ならば……
玲菜は無我夢中で壁に駆け寄り窓を開けた。朱音がロープか何かを上から垂らしているのかと思ったから。
しかし現実はもっと酷で。
玲菜が窓から逃げようとしているのに気付いたユナがもう一度短剣を玲菜に突き付けようとすると、階段の上から朱音がやってきてクナイを投げて短剣を弾き落とす。
ということは、外に彼女は居ないということで。現に今、階段前に居た大男と戦い始めた。
まさか、一人で飛び降りろとでも言うのかと恐れた時。
「レイナ!」
なんと、すぐ下の階の部屋の窓からショーンが顔を出して、身を乗り出しながら両腕を前に出して自分を呼んでいる。
なぜここに居るのかとか、出来ないとか言っている場合ではなく。
「絶対受け取るから、おじさんを信じろ!」
彼は映画のようなカッコイイセリフを言っていて。足がすくむ玲菜に飛び降りを迫る。
大男たちはすぐに玲菜を掴まえようとしたが、玲菜は無意識に、自分が今まで縛られていた椅子を持ち上げて大男に投げつけた。同時に片膝をついていたレオが床にあった短刀を拾ってそのまま大男の背中に投げつける。
「ぐあぁっ!」
短刀が刺さった大男はなんと玲菜の方へ倒れてきて。ぶつかった拍子で玲菜は窓から落ちてしまった。
「わああああああ!!」
死を覚悟した玲菜を見事受け止めたのはショーンだ。
たかが一階分といっても、落下の重力と玲菜の体重が齢《よわい》五十を超えた彼の腕にのしかかる。
「うおおおお!! 中老なめんな!!」
ショーンはいつもと違い、妙なテンションで叫び、玲菜を部屋の中へ入れる。恐らくこれが火事場の馬鹿力というやつか。玲菜はショーンと一緒に床に倒れこんですぐに彼を心配した。
「ショーン、大丈夫?」
「あいたたたた」
おじさんは腰を押さえて立ち上がる。
「重かったでしょ? ショーン」
玲菜が支えようとすると、「大丈夫だ」という風に手を向けて、彼女の腕を掴んだ。
「逃げるぞ、レイナ!」
「ちょっと待って! レオたちが」
「平気だよ、あいつらは」
ショーンの言う通り、レオたちはもう武器を持って戦っているようだったが。玲菜が心配だったのはそれだけでなく。おじさんが引き留めるのも振り切って、玲菜は階段を上がった。
「レオ!」
部屋の前まで来て叫ぶ。
「ユナのことは殺さないで!!」
まさに、屈強な男たちを全員倒して、レオがユナに刃を向けているところだった。
「お願い!」
玲菜は夢中でレオに飛びついて腕にしがみ付く。
「なっ!」
それでもレオは刀を振ることができたが、玲菜の行動の真意が分からなく、手を止めた。
代わりに朱音がユナを刺そうとしたが、それも玲菜は止める。
「朱音さんも!!」
その隙でユナは逃げ出した。朱音の部下もどうすれば良いのか分からずに止まって、追おうとしたレオを玲菜は抱きしめて引き留めた。
「お願い! 追わないで!」
聞こえていたショーンも彼女を見逃す。
レオは玲菜の行動が全く理解できずに怒鳴った。
「どうしてだ!? どうしてあの女を逃がす!?」
「だって!」
「お前を拉致して、俺を殺そうとしたんだぞ!? お前のことも!!」
「分かってる! 分かってるけど……!!」
玲菜は自分でも訳が分からずに必死に言った。
「でも、ユナのことをレオが斬るのは見たくない!」
刀を下ろして、レオは言う。
「じゃあ、あの女が俺を殺すのはいいのか?」
「そうじゃない! そうじゃないよ!」
いつの間にか涙ぐむ玲菜。今になって先ほどの怖さが来て、足の震えで立てなくなる。
「大丈夫ですか?」
そこを朱音が支える。
「……はい」
涙が出てきて、玲菜は顔を覆った。
「レオ……無事で良かった」
止まらなくなる涙。
「戦場でも、今も!」
「朱音」
レオは玲菜を支える朱音に命令する。
「後始末と、あの女の行方、それと見張りを頼む」
「は、はい!」
朱音は部下を連れてその場を去る。
一方ショーンも、玲菜の泣く声が聞こえた後に朱音たちが降りてくるのを見て、自分も階段を降りた。少しだけ寂しいような……そんな気分になりながら。
レオは皆が居なくなってから、泣いている玲菜に自分のマントを掛けた。
「血の臭いがするかもしれんけど、我慢しろ」
寒さと怖かった思いで混乱して、玲菜は小さく首を振る。
「うん。大丈夫。もうなんだかわかんないから」
レオにくっついていたから、自分にも血が付いてしまっている。臭いは慣れないが、洗えば平気だと思ってしまう自分が怖い。
(レオ……)
玲菜は改めて、彼が無事で良かったと思った。戦が終わってようやく会えたのに、まさか自分が拉致されてまた彼の命が危険にさらされるなんて。
「レオ……生きてて良かった」
本気でそう思う。
「レオ……」
涙を落とす玲菜。
「私のせいで」
「お前のせいじゃない。元はと言えば俺の命が狙われているから」
レオの言葉に、堪《こら》えられなくて玲菜は彼の服を掴んだ。
「ずっと、ずっと心配だったの」
俯きながら伝える。
「レオがずっと心配で。私……」
もう駄目だ。想いが溢れる。
「私……レオにずっと会いたくて」
目をギュッとつむって、涙をこぼす玲菜の頬に、レオは血の付いた手袋を外してそっと触れた。
「俺もずっと会いたかった」
優しく涙を拭く。
「ずっとお前のことを考えていた」
そう言って、彼は玲菜を抱きしめる。
「無事で良かった。レイナ……!」
そして、思いが募《つの》って口を開いた。
「……好きだ」
「俺は、お前のことが好きなんだ。レイナ」
「え?」
今、なんて言われたのか、全く頭に入ってこない玲菜。
「こんなこと言ったら、お前が困るのは分かってる。すまない」
レオは謝って、それでも告げる。
「お前はオヤジのことが好きで、俺に対しては家族みたいに思っているのは知っているけど。でも、俺は本気でお前のこと好きだから。それが事実だから」
「ちょっ……」
衝撃の告白に、涙が止まる玲菜。
「ちょっ…と、待って……!?」
一旦レオの腕を解いて今のセリフを整理する。
(え? 今、レオが私のこと好きって言わなかった?)
「だから、悪かったって言ってんだろ? でも、俺ももう気持ちを抑えられなくて」
顔を赤くするレオに、玲菜はつっこんだ。
「え? なんで謝ってんの? え? 私がショーンのこと好きって……え?」
「なんだよ」
気まずそうに訊くレオ。
「いや、だから。俺に告白されたらお前困るだろ? 他に好きな男がいるんだから」
「……なんで?」
玲菜は混乱しそうになりながらレオに伝える。
「私が好きなのは、レオなのに。なんで?」
「え?」
二人で顔を見合わせて、色々と何かがすれ違っていることに気付く。
「『え?』じゃなくて、私、レオに告白したでしょ? それで……振ったじゃん、レオは」
「はあああ!?」
レオのまさかの反応に、玲菜は唖然とした。
「お前、俺に告白? え? だって、あれは……俺のことが好きって……軽い意味で言ったんだろ?」
「軽くない!」
あまりに伝わっていないショックで玲菜は泣きそうになった。
「なんで軽いの? あんな本気で言ったのに」
「え? ……えええ!?」
驚きながら、レオは言う。
「いや、だって、お前、その前にオヤジの前で否定してたじゃないか。『俺のこと好きなんだろ』って訊いたら『そんなわけない』って。あれで俺は、二度と勘違いしないと誓って、だな」
「あれはだって、否定するでしょ? 普通は! ショーンの前なんだよ?」
玲菜の証言に、顔を真っ赤にするレオ。
「え? ちょっと待て。……ちょっと待て?」
頭を抱えながら訊く。
「要するに、お前の俺に対しての好きは……恋愛感情?」
「そうだよ! この鈍感レオ!」
恥ずかしそうに玲菜は答える。ついでに質問も。
「そっちはどうなの? そっちの私に対しての好きは?」
そっぽを向きながら、レオは答えた。
「だから言ってんだろ。恋愛感情だよ! お前こそ鈍感だろ」
なんと。両想いにしてこのムードの無さ。
二人は今までの自分たちのすれ違いに気付いて軽く落ち込む。特にレオは、詰所での一夜を思い出して後悔した。
「損した」
「え?」
「なんでもない」
ムスッとするレオの顔を覗きこむ玲菜。
「何? どうしたの?」
「なんでもねーよ」
レオはムキになって否定するが余計気になる。
「ねぇ、レオ……」
玲菜がもう一度訊こうとすると、レオは彼女をぐいっと引っ張ってキスをしてきた。
(……え?)
突然すぎて目もつむらなかった玲菜は事態を把握できずに呆然とする。
引っ張られたと思ったらいきなり目の前に彼の顔があったし、唇に触《ふ》れる感触。
しかしそれは一瞬で。
唇を離してから、レオは顔を赤くして怒ったように言った。
「だから! そうやって上目遣いで顔を覗きこむな! キスしたくなるだろ」
すでにしといてその言いぐさはなんだ。
「し、したじゃん!」
恥ずかしそうに玲菜がつっこむと、レオは俯いて呟いた。
「だから。もう一回したくなるんだよ」
なんて答えれば良いのか分からない。
今のキスは実感が無さ過ぎたし。玲菜は唇を触《さわ》る。
(なんか一瞬だったし。ホントは私も……)
もう一回したいなんて言えない。
とてもじゃないが、恥ずかしすぎて口に出せない。
キスがしたいなんて、言おうと思っただけで熱くなって口が開かない。
ならば態度で示せばいいのか。
玲菜は勇気を出して、目をつむってみた。古典的だが、キスをする時は目をつむるのが標準で。意思表示である気もしたから。
けれど、目をつむった瞬間に後悔する。
(って、気付いてもらえなかったら私どうしたらいい?)
気付いてもらえなかったらもう一生目を開けられない。
一生というのは大袈裟だがそれくらい恥ずかしい。
むしろ、今この待っている状態が一番つらいわけであり。果たしてレオが気付いてキスをしてくれるのか。間がもたない。
そんなことを考えながら現状確認のため、薄目を開けようとしていると。
――唇が触れてきて。
二人は先ほどよりも少し長くキスをした。
長くといっても実際は数秒長い程度。もちろん二人ともファーストキスではないのに、もういっぱいいっぱいで。
レオは玲菜の顔を見られなくなってまた強く抱きしめた。
玲菜も同じく。レオの顔は見られないので彼の胸に顔をうずめて背中に腕を回す。
しばらく抱き合っていると、レオが雰囲気ぶち壊しなことを言った。
「腹減って死ぬ」
そう、彼はほとんど飲まず食わずだった。
実は玲菜も似たようなもので、お腹が空いていた。
しかし、暗がりでよく見えないのと感覚が麻痺しているので分かりづらいが、二人とも……というか、レオは特に血まみれで、このまま塔の外に出られない。
仕方なくレオは甲冑《かっちゅう》と詰襟《つめえり》の上着を脱いだ。
鎧は着けるのは凄く時間がかかるが、脱ぐのは割と簡単に外せるように改良してある。
鎖帷子《くさりかたびら》姿になったレオは「少しカッコ悪いがこれでいいか」と自分の格好を見た。中にはシャツを着ているが、さすがに寒すぎて鎖帷子は脱げない。
「よし。血は無くなった」
レオはそれで満足したが、玲菜の服にも血は付いていて、気になる。
「私、どうしよう」
「大丈夫だよ。お前の服は黒いし外は暗いから目立たないだろ」
「でも血の臭いが」
「平気だよ。大勢居て、酔っ払いも居るし、臭いなんて気付かれない。そもそも兵士の鎧や服にも血はついてるしな」
レオは両手で自分の髪をボサボサにする。
「何してんの?」
玲菜が訊くと、苦笑いしながら答えた。
「念の為、な。皇子だってバレたくないから。まぁマントも鎧も脱いだからバレないと思うがな」
そう言って突然玲菜を抱きかかえる。
「え? 何?」
玲菜は慌てたが。彼は平然と言う。
「下に降りる。もしかしたら片付いてんかもしれないけど。お前、死体とか血を踏みたくないだろ?」
ゾッとして、玲菜はレオにしがみついた。
そうだ。階段にはレオが斬った相手が倒れているはずで。想像したくないし見たくない。
「怖かったら目をつむってろよ」
言われた通りに目をギュッとつむってレオの方に顔を向けた玲菜は恐くて体が震える。
レオは彼女を抱えながら足元に気を付けて階段を下り、気になったことを訊いてみた。
「お前って、人を斬る俺のことを“怖い”って思ったりするのか?」
「え?」
あるだろうか? 考える玲菜。
以前には思ったことがあるような。しかし今は少し違う。
「怖いっていうか、斬ってほしくないって思うよ。もちろんレオは命が狙われてるし、戦場に行くから無理なんだろうけど。でも、もし……そういうのが無い世界に行けたら……」
そこまで話して、続きが言えなくなる。
うかつだった。涙がこぼれてきた。
レオと両想いだと分かって、この上無いくらい幸せな気分だったのに。
(私、元の世界に戻るの?)
自分に問う。
(嫌だ。レオと離れたくない)
レオのことが好きになった時点でこうなることは予想できたはずだ。
(でも、お父さんとも会いたい)
ショーンは自分にとって、父親のようではあるが、やはり違う。本当の父とは違う。
レオは黙って階段を下りて、やがて扉の前で玲菜を下ろした。
「悪かったな。変なこと訊いて」
「ううん」
首を振る玲菜の手を掴む。
「今夜は、俺は皇子じゃなくてただの兵士のレオだから。行こうか、レイナ」
「う、うん」
繋いだ手を熱く感じながら玲菜はレオに連れられて外へ出た。
満天の星の下、気温は寒かったが、皆の宴会の熱気は下がる気配も無い。暗がりのせいもあって、レオは皇子だとバレずにただの兵士のように皆に混ざって酒を飲んだり料理を食べたりする。今まで我慢していたうっぷんがあったのか、あり得ないほどの大食いと酒豪っぷりを披露してくれて、玲菜は隣で雰囲気を楽しんだ。
大宴会は朝方まで続き、外で寝ていて凍死する者が出ないように警備兵が巡回まで行った。
玲菜はいつの間にか、城の広間の壁を背に座り、酒を片手に持ったレオと手を繋いだまま寝ていて、誰かが二人に毛布を掛ける。
それはショーンだと、薄《うっす》ら起き出した玲菜は気付いたが。幸せな気分のまま、また眠りにつく。
毛布を掛けていた人物は二人の寝顔を見て静かに呟いた。
「俺がたくさん嘘をついているって知ったら、レオやレイナはどう思うかな」
(レオなんて、人間不信に陥《おちい》るかもしんね〜な)
“その時”がいつ来るのかはわからないが、彼は煙草をふかしながら朝靄《あさもや》に消えて行った。