[第四章:前の職場では主に略奪をしていました]

 

「おい! 知ってるか? 武器と防具は持っているだけじゃ駄目なんだぜ」

 恐らく一生に一度も言われないであろうセリフを、現実に言われた俺。

 言ったのは荒くれ者風の男でやけにごついし声が低い。モーガンの手下の海賊だ。他の仲間の連中と嘲笑っているのがまたむかつく。

 知ってるよ。俺だってそんなバカじゃない。「ちゃんと装備しておけよ、このど素人」と忠告したつもりだろうけど。そもそも俺は武器持ってないし!!

 あったまくんな〜、この武器屋っぽいおっさん。と思ったけど黙っておく。

 ここはモーガンの行きつけの酒場らしい。なんか、海賊の仲間なのか別に関係無い人間なのか、とにかくおっさんがいっぱい居て皆で陽気に飲み合っている。中には若いねーちゃんをはべらしてご機嫌の奴も居るし。真っ昼間から酒の臭いと加齢臭が充満しまくっている。荒くれ者達に馴染みの店って感じだ。

 俺とポーラは離されて、俺には手首に縄を掛けられている。ポーラは特に縄等は掛けられていないけど横にモーガンが居て煙管《キセル》を吸いながらこっちの様子を見ている。

 

 やがてモーガンはポーラを連れて俺の前にやってきた。

 フウッと煙管の煙を俺の顔に吹きかけてニヤッと笑いながら言った。

「さぁーて。どうしてやろうかね、この坊や」

 煙いけど我慢して俺は睨み付けてやった。

「ふふ。反抗的な眼をするじゃないか」

 モーガンの口元にはホクロがあって、それがまた絶妙に色気を出している。

 って、見惚れてるわけじゃないからね。

 ふとポーラの方を見るとじっと俺を見ていたのでなんとなく頭の中で言い訳をしてしまった。いや、する必要無いんだけどもなんとなく。

「おや、見つめ合っちゃって。惚れたの? ポーラに手を出したのかい?」

 モーガンの言葉に、一瞬口づけのことが浮かんだけど。あれはポーラからしてきたわけだから、手を出したってのは心外というか不適切な表現でありまして。

 思い切り首を振る俺。けれどモーガンは俺ではなくポーラの方を見て確認した。

「何かされた?」

「……」

 反応が無いのがこわい。

 少し経ってからようやくポーラが首を振ったのでモーガンは近くの椅子に腰掛けると鼻で笑って言った。

「良かったじゃないか」

 俺に。

「ガキのくせにポーラに手を出してたら、あんたのを切り落としてやるところだった」

 切り落とすって……

 何を?

 嫌なコトを想像して背筋が一気に凍った。

 俺のなにを?

 首? それとも腕? 足? それとも……

 ソレとも!?

 ソレだけは絶対イヤーーーーーーーーーーーーー!!

 首も駄目だけど。いや、全部駄目だけど。

 モーガンの眼は本気だったので。絶対に笑えない。変な汗がとにかく出てきた。

「そんな緊張しなくてもいいから、質問に答えてもらうよ」

 また煙管を吸うモーガン。その煙を吐きながら質問をした。

「あんたはブロッサムの所の新入りかい? ポーラを連れて逃げたのはブロッサムの命令?」

 ブロッサムって、あの赤鮫海賊船の船長の名前だよな?

「違うよ」

 俺はブロッサムの所の新入りどころか海賊ではないということと、自分の意思で逃げたこと、本当は獅子の国の人間で、偶然に事故で船に乗ってしまったことを話した。

 

「――ふ〜ん」

 じぃっと俺の眼を見るモーガン。手下達が「でたらめを言うな」と言ってきたが、それをあしらって俺に訊く。

「その話がもし本当だとしたら、とんだとばっちりを受けたもんだねぇ」

 そうだよな。ホントだよ。

「じゃあ、ただ巻き込まれただけのかわいそうなあんたを解放してやろうか」

「え?」

 モーガンの口から出た信じられない言葉に、ついポーラの方を見る俺。

 解放されたら俺は自由か?

 これで獅子の国に帰れる?

 でもポーラはどうなる?

 モーガンはポーラには危害を加えなさそうだけど。危害どころか大事にしてるっていうか。確かにポーラもモーガンのことは嫌いじゃないって言ってたな。

 だけど……「帰りたい」と言っていたんだ。多分、だから俺についてきたんだ。

 モーガンは俺に顔を近付けて優しい声で言った。

「なぁ〜んて、甘いこと言うわけないだろう?」

 微笑の中に少なくとも夜叉が居住している。

 そう、こいつは海賊で。理不尽極まりなく略奪者なんだ。

「一度海賊船に乗った者はどんな理由があれ、もう海賊だってね」

 ええ〜〜〜〜俺もーーーーー!?

 俺も同類っすか!?

 そんなバカな。どう考えても理屈がおかしいだろ!

「違う!」

 俺はきっぱりと言ってやった。

「俺は……」

 武士の息子? 侍? 違う。もっと信念があって……

「海賊じゃない。反マゲ組組長の藤原時三郎だ!」

 解散宣言したんだけど。

「反? マゲ? なんだ? フジワラ組長?」

 モーガンの手下達が聞き慣れない言葉に戸惑っていたが、彼らがびっくりしたのはもっと別のことだったらしい。

「船長に反論するとは命知らずの奴だな」

 これだ。

 とりあえず訂正をしておく。

「いや、藤原じゃなくて時三郎が名前ね。で、反マゲ組だから」

 

「アーハッハッハッ!」

 突然モーガンが高らかに笑った。

「面白い坊やだね。名前はトキだっけ?」

 いきなり略されてるし。

「殺すのが惜しくなってきた。あんたうちの仲間にならないかい?」

 って、殺すつもりだったの? しかもブロッサム同様また仲間に勧誘されたし。海賊って仲間集めが趣味? それとも俺モテ期かな。海賊に。

 でもとにかく職業が海賊なんて駄目だ。最後に「王」とか付けばいいけどさ。大体海賊なんて収入はどうなの?

 ……結構いいかもしれないけど。いや、普通に犯罪者だし、駄目だろ。

 いや、確かにね、文京に「自分がなろうと思えば大泥棒にだってなれるんだぞ」みたいなこと言ったけどもね。実際違うじゃん? 海賊じゃあ親から勘当もんだよ。春とも結婚出来ないし。

 でも待てよ? 船に乗ればもしかして獅子の国に帰れるかもしれない? そもそも断ったら殺されるのか?

 俺が返事をしないでいると、モーガンが席を立って腰にさげた剣を抜いた。それを見た飲んだくれオヤジ達はどよめき、皆が一気に注目してきた。

「嫌なの? それとも、あたしと勝負して自由を勝ち取るか」

 慌てたのは店主らしきおっさん。モーガンに手を向けて近付いてくる。

「モーガン、頼むから店内での殺しはやめてくれ」

 ううっ俺が死ぬこと前提になってるし。まぁ勝つ自信無いけど。

 外野のおっさん達が面白そうに無責任発言をしてくる。

「どうしたんだ? 決闘か?」

「外へ行くのか?」

「相手が子供じゃかわいそうだろうよ」

「オレはモーガンに賭けるぜ」

 ちょっと待て。賭け事に発展してるし。

「いや、全員モーガンに賭けるだろ。成立しねぇよ」

「じゃあ飲み勝負ってどうだ? ガキはもしかして強ぇかも」

 飲み勝負?

「たまにはそんなのもいいかもねぇ」

 なんと! 誰が言ったかも分からない案を受け入れたのはモーガンだった。

 え? 酒飲み対決ですか? 確かにそれなら死ぬことは無いだろうけど。俺って酒強かったっけ?

 なんて考えているといつの間にか周りは囲まれて、逃げることも出来なくなった。

「よし決めた。酒の飲み勝負だ」

 モーガンが宣言したことで野次馬達は大盛り上がりになった。皆便乗して飲んだり叫んだり賭けを始めている。

「あたしが勝ったらあんたはうちの船員になる」

「分かった」

 引き受けると俺の手首の縄は外された。

「俺が勝ったら……」

 どうすんべー。

 自由? ポーラ? 獅子の国?

 俺の頭には三つの選択肢が思い浮かんだ。

 出来ればポーラと一緒に自由にしてもらえるといいよな。そんで獅子の国へ送ってもらえたら最高なんだけど。そんなに欲張れないよな。

 やっぱ自由か? もう金輪際俺に手を出すな、みたいな……でもそれってポーラを見捨てる感じ?

 獅子の国に送ってもらうってのはどうだろうか。別に勝てば海賊の仲間にならなくていいわけだし、着いた時にどさくさに紛れてポーラを連れていっちゃうとか……でも、それもその後追われたりするんだよな。こいつらしつこそうだし。

 だとすると……

「早く決めな!」

 促されて俺は深く考えずに言った。

「ポーラを貰う!」

 って、いいんだよな? 貰う宣言すれば約束だからもう追われなくて済むだろうし、海賊の仲間にもならないから実質自由か。獅子の国には北の港に行って帰ればいいし。

 ただ、ポーラの気持ちは訊かずに言っちゃったけど。

 周りはシーンとしていて、モーガンが呆れたように言った。

「あんた、本気であの子に惚れちゃったんだねぇ」

 いや!

 そういう意味に捉えられたか。

「そうじゃなくて……」

 言い訳はおっさん達の盛り上がった声に掻き消されていよいよ飲み勝負が始まった。

 

 モーガンはいかにも強そうだ。

でも、絶対に負けられない戦いがそこにある。

運ばれる酒を次々に飲み干して俺はなんとか意識を保った。

ぜって〜〜〜負けらんねぇよ。

俺の負けず嫌いといったら、それこそ誰にも負けない自信がある。

いかにもアルコールが高そうな酒を数杯飲んだけれどまだいける。モーガンも余裕そうで早く倒れてくんねーかな、なんて正直思うけど。とにかく俺はまだ大丈夫だ。

飲み干したコップをドンッと机に置いてモーガンはニヤッと笑った。

「すぐ倒れるかと思ったけど、子供のくせにやるじゃないか」

 なんつーか、周りがうるさくてよく聞こえねーよ。とりあえず前に運ばれた酒を飲み干してから遺憾の意を示すか。

「俺は子供じゃない」

 なんだか鼓動が激しくなってきたよ。大丈夫か? 俺。

 顔も熱いし。

 なにこれ、恋?

 のわけねーし。ちょっとまずいかなぁ。

 そう思ってる内にモーガンの番は終わった。次は俺の番か。何杯目だろ? 十は多分超えている。

 俺は夢中で酒を飲んだ。

 絶対負けられないと言いつつ、負けちゃうのが現実か? それは駄目だ。

 それは駄目なんだ。

 あーーでも、やばい。目が回ってきた。というか気持ち悪ぃ。

 次で倒れてほしいと思ったモーガンはまだ平気そうだ。また俺の番がやってきた。

「もうギブアップかい?」

 冗談じゃねぇ。

「おいおい、あいつ粘るなぁ。もう何杯目だよ」

なんて声も聞こえる。

俺が頑張って飲み干したことでまたモーガンの番になった。もう、頼むから終わって。じゃないと俺、もしかしたら死ぬかも。中毒で。酒なら死なないで済むって思ってたのに。思ってたのに……無情にもまた俺の番がやってきてしまった。

「いい加減諦めな」

 モーガンが降参を促してくる。モーガンだけじゃなく周りのおっさん達も言ってくる。

「すげーよ! ホントによく頑張った。しかも子供なのに」

 だから、

「俺は子供じゃねーーーーーつってんだろ! 十七だ。成人してる!」

 なんか今怒鳴ったら色んなもんが口から出そうになったぞ。

 ああもう意識失いそう。

 失っちゃ駄目だ。失っちゃ駄目だ。失っちゃ駄目だ。失っちゃ駄目だ……

あれ? なんか、皆が大騒ぎしてる――

 

 

 

 

 当たり前のように過ごしていた毎日が、故郷が、今はこんなにも遠い。

 目が覚めた俺は最初花畑の中に居るのかと思った。

 綺麗な花畑……ってことは、黄泉の国?

 そうか、ついに俺は死んだんだな。なんて思いながら横を見ると……そこにはモーガンが眠っていた。

 え? モーガンも死んだのか? というかここは花畑?

 いや、花……柄……の、布団?

 布団?

「うおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜!!

 気付いたら大声で叫んで寝台から転げ落ちていた。

 そう、花柄の布団の寝台で俺はモーガンと一緒に寝ていたから。

 

 なんでだよ!!

 なんでだよ!? なんでだよ!?

 どぉいうことなんだ〜〜〜〜〜これは〜〜〜〜〜〜!!

 ああもう、なんだよ。

 頭に浮かぶのはサイアクな結論。

 なんでそういうコトになってたんだよ。

 誰か嘘だと言ってくれ。

 まさか酔った勢いで!? 俺が? モーガンが?

 記憶が無いのが恐すぎて呆然とするしかない。

 ちょっと待て。まじかよ!

 よく見ると服はお互いに着てる。

 でも、どうなんだ〜?

 思い出そうとすると頭が割れそうに痛い。

 もしそうだとしたら最低だよ。

 はぁああ〜〜〜〜。

 その前に、なんなんだよ、この乙女チック全開な部屋はよぉ〜、どこなんだよ〜。

 今居る部屋はそれはもう、花の多い女の子らしい部屋だ。まさかとは思うけど……

 俺が混乱して大汗を掻いていると寝ていたモーガンがこちらを向いて目を開けた。

「あたしのベッドの寝心地はどうだい?」

 やけに気だるそうな雰囲気に放心しそうだ。

「いいだろぅ? 船長室」

 ……

 頭の中が真っ白になるってこういうこと?

 ここって、モーガンの部屋? 乙女チックな寝台はモーガンのベッドってことぉ? いや、それよりも。

「船長室〜〜〜〜!?

 頭の整理が追いつかない。

 ここってまさか、黒蛇の船の中? ええ〜〜〜まじかよ!!

 あ、そっか。

 恐ろしい事実が見えてきて俺は愕然とした。

 もしかして、俺って飲み勝負で負けたのか? それでこいつらの仲間になるってことになって船に運ばれたのか?

 そして……俺は、モーガンに……

 

 もう、泣きそう。ポーラ…あ、いや、春! ごめん。もう僕はお婿に行けないかもしれない。けがれた俺を許してくれ〜〜〜〜〜〜〜。

 

 俺が頭を抱えていると、モーガンはこちらをじっと見つめて甘い声で言った。

「なかなか、ヨカッタわよ、坊や」

 ああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

 ごめんなさい、切腹します。

 俺は最低だ。俺は最低なんだ。最低なんだよ俺は。

 憶えていないし。

「なーんてね」

 え?

「何焦ってんだい。冗談に決まってるだろう」

 え?

 

 モーガンの言葉の意味をゆっくりと考えた俺は、やったのかやってないのか、良かったのか悪かったのか、どちらのことなのかよく分からなくなってしまった。

「えっと、あれ? 俺は……」

「あんたは意識を失ったままずっと寝てたよ。いくらあたしでも、子供は襲わないから安心しな」

 子供でセーフ。

 俺は初めて自分が子供だと思われていることに感謝した。

 だって、今のセリフは、つまり俺とモーガンはそんなコトにはなってなかったという事で。

 良かった〜〜〜〜〜〜〜〜。

 ホントに、ホッと一安心だ。俺、間違いを犯してなかったよ。犯されてもなかったし。

 それでも! 飲み勝負に負けた事実に落ち込んでしまうし、これからのことを考えると気が滅入る。確かに無職だったのは否定出来ないけど、だからといって初職業が海賊だなんて転職する時どうすんだ!? 履歴書になんて書けばいいの? 特技は大砲を撃つことです、前の職場では主に略奪をしていました。とか言うの? せめて船乗りだろ。船乗りなら津波を呼び寄せる特技とかを習得して即戦力として入れるかもしれないし。(冒険者の仲間に)

「さてと」

 モーガンは寝台を下りて、床で座り込んでいる俺を見下ろす。

「昨日はあんな事になったけど、あんたはあの子をどうするんだい?」

昨日?

「あたしは仲間を助けにいく。もちろんポーラも。とりあえず勝負もついていないことだし、あんたがその気ならここは一先ず…」

「ちょっと待って!!

 え? どういうこと? 話が掴めない。

「昨日って、俺負けたんじゃないの? っていうかポーラを助けにいくって?」

 モーガンは一瞬止まって、その後凄い勢いで俺の胸座を取った。

「憶えてないのかい!?

 すみません。

 目をそらす俺に確認するようにモーガンは話す。

「昨日、あんたに降参を迫っている途中で奴らが来たじゃないか。警官隊が」

「ええ!?

 つい大声で聞き返してしまった。

 だって、警官隊!?

「どこで密告《タレこま》れたのか知らないけど、海賊の検挙で一斉に酒場に入ってきて、慌てて逃走したけど仲間が結構捕まったんだよ。その中にポーラも居て」

「ええ!?

 ポーラが警官に!?

「あんたも一緒に戦って逃げたろ!」

 その時急に昨日のその状況が思い出されてきた。

 

 ――そうだ。

 俺はもう半分意識を失いながら酒飲み勝負を続けていて……その時急に皆が騒ぎ始めて。大勢の警官隊が笛を鳴らしながら入ってきたんだ。

 俺は無意識に誰かの剣を拾って、朦朧としながらモーガンとポーラと一緒に逃げて。混乱の中でポーラだけはぐれてしまって――

 

 その後の記憶は全く無い。多分倒れたんだ。

 やっぱりまだ頭が痛い。それでも断片的に思い出した記憶に後悔する。

「ああ、そうか」

 そうだった。

「思い出したかい?」

「半分」

 そう言った俺の胸座を離してモーガンは改めて訊く。

「で、どうする? 手を組む?」

 そうか。ポーラを助けにいかなきゃ。俺は頷いた。

「うん、ポーラを助けにいく。協力してくれたらありがたい」

「ハハッ! 言うねぇ。男じゃないか」

 モーガンは俺の手を掴んで引っ張る。

 立ち上がって改めて握手した。

 とりあえずここは手を組んで、捕まったポーラとモーガンの仲間を助けに行くということで合致。共同戦を張る、と。

「そうと決まったら作戦会議と仲間の杯を交わすか」

 なんか騙されているような気もしないでもないけど。仲間って海賊の仲間ってことじゃないよね? ポーラ救出作戦の仲間ってことだよね?

 色々疑問もあったけれど、俺はどうしても気になる疑問を訊いてみた」

「ところでさ、倒れたのは分かったんだけど、どうして俺はモーガンの布団で一緒に寝てたの?」

 わざわざ自分のベッドに寝かせて自分も一緒に寝るなんて、普通に考えたら誘ってるとしか思えない。

「飲み勝負で頑張ったご褒美だよ」

 ご褒美? って、飲み勝負で頑張ったから「あたしをあ・げ・る」ってやつ? んなバカな。「一緒に寝てあ・げ・る」か? そんなバ・カ・な。

 モーガンは言う。

「あんたは床で寝かされるはずだったんだけど、特別にベッドで寝かせてあげたの。嬉しいだろ? 仲間達は皆寝たがっているんだよ、あたしのベッドで」

“ベッドで”というか、“モーガンと”なら分かるんだけど。まさかこの人分かってない?

 そのまさかを裏付けるようにモーガンは続ける。

「皆ハンモックで寝るからさ、花柄のベッドがよっぽど羨ましいんだろうよ」

 違うと思うし!

 花柄とか関係無いし! ベッドが羨ましいっていうより絶対一緒に寝たいだけだし。

 つーか、モーガンってあんなに強くて恐くて男勝りで、綺麗で色気がある大人の女なのに……実は天然!? しかも乙女チックというか少女趣味というか。

 そう気付くと今まで積み重なってきた恐ろしさが一気に崩れる。

 うそっ。案外可愛いし。まじ待って、笑いそう……!

 そのギャップの差に、思わず笑いを噴出しそうになった俺は、しばらくの間は肩の震えを抑えるので精一杯だった。


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