[序章:マゲ、ゼッタイ、ダメ!]
マゲは嫌いだったけど、自分の国は大好きだった俺が「まさか」と言わんばかり……いや、むしろ言った出来事が起こったのは十七歳の夏の或る日のことだった。
俺はいつものように反マゲ組の旗を振り、マゲ愛好家組の奴らと一触即発の小競り合いを続けていた。
「マゲ、ゼッタイ、ダメ!」
俺の掲げる旗の下に賛同する者が集まり、マゲ愛好家の奴らを睨み付ける。
マゲというのはこの国を一時期一世風靡して、今尚愛好者達がでかい顔して道の真ん中を歩いている非常に腹の立つ髪型である。俺は流行り始めた頃からソイツが大嫌いで反対活動を続けて、いつしか反マゲ組の組長になっていた。
活動内容は主にマゲ廃止の案を人通りの多い道で叫び続けたり、マゲの悪口を考えたり、たまにマゲ愛好家組と睨み合ったり。あと……色々あるけど、まとめて言うと環境問題に取り組んだり、愛で地球を救った気分になってみたり、要するにそういった自己満足に対して心の中で文句を言う、言わば正義の味方なことだ。
一方マゲ愛好家の奴らは、マゲを撫でたりマゲを指したりマゲを挿したりマゲを舐めるように見たり、たまに羨ましいくらい深爪したり……要するにどうでもいいことばかりして喜んでいる残念な奴だ。
連中は俺らを見るととにかく、マゲが無いだの前髪があるだの因縁をつけて絡んでくる迷惑極まりない奴らで、今現在もルール無用の残虐非道な睨み合いが始まった所だ。
そして俺達の個性豊かな髪型を見下して言い放ってきた。
「おめぇらのヘアーはだっせぇなぁ!!」
ダサいわけがない。俺の自慢の髪を見ろ! 後頭部の高い位置で結んだ長い黒髪は美しいに決まってる。髪が風でなびくなんてマゲでは絶対に味わえないだろ。
「うるせぇ! マゲは時代遅れなんだよ!!」
うちの組の者も負けじと言い返したことで言い合いが始まった。
「なんだと? やんのかコラァ!!」
「マゲ切ってやる!」
「望むところだぜ!」
「上等だ!! 今日こそ決着つけてやる!!」
「待て!!」
俺は暑くて暑くて我慢出来なかった。あと、蝉の声がうるさ過ぎて腹が立っていた。それと、今日はバイトで時間が無かった。だから仲間を止めた後、皆に告げた。
「本日をもって解散!!」
――在る夏の日、十七歳での決断だった。